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小・中学生を夢中にする児童書ヒットメーカーが教える、子ども心のつかみ方

学研プラス発行の「5分後に意外な結末」シリーズ。
そのタイトル通り、あっという間に読めて、最後にはあっと驚くドンデン返しが待っている、今までにない児童書として、小中学生に大人気だ。

1万部を超えればヒット作と言われる児童書の分野で、「5分後に意外な結末シリーズ」は2013年に1冊目を発売後、今やシリーズ累計280万部(2020年4月時点)を突破するベストセラーに。

全国の小中高校で実施される「『朝の読書』で読まれた本ランキング」(トーハン調べ)でも、小学校高学年から中学生に不動の人気を誇っていることが見て取れる。児童書の中で一つのジャンルを作ったとも言えるこの本は、なぜ子どもたちを夢中にさせるのか。

シリーズを企画・編集した株式会社学研プラスの目黒哲也さんに聞いた。

目黒 哲也(めぐろ てつや)
神奈川県横浜市出身。1992年に学習研究社(現・学研ホールディングス)に入社。入社後は、長く高校生向けの学習参考書の編集部に所属。3年前に異動し、現在はあらゆるジャンルの児童書を手掛けるコンテンツ戦略室に所属。

子どもには読書で背伸びをしてほしい

――「5分後に意外な結末」シリーズは多くの子どもたちに親しまれている人気シリーズですが、制作のきっかけは何だったのでしょうか

もともとは学校の図書室に置いてもらえる本を作ろう、というところがスタートでした。読書が苦手な子や、だんだん読書から遠ざかる中学生などのヤングアダルト層にも読まれる本にしたいと思い、注目したのが学校で始業前の10分間に実施されている「朝の読書運動(以下、朝読)」です。

朝読では、読む本を図書室で借りる子が多いので、そこをターゲットにしたのです。そこで、読書が苦手な子のことも考えて「5分」で読めるショートストーリー集を思いつきました。

さらに、最後にあっと驚くような意外な結末があって、読書体験がカタルシス(心の中にたまっていた感情が解放され、気持ちが浄化されること)になるようにしたかった。まさにこの本の特徴である「5分」と「意外な結末」をくっつけて、それをストレートにタイトルにしました。

――これまでヒット作が生まれにくいといわれていたヤングアダルト層の市場で、「5分後に意外な結末」シリーズはベストセラーになり、今では他社からも類似本が多く発売されています。このシリーズがヒットした要因はどこにあるのでしょうか

最後に予想を裏切るようなあっと驚く展開が待っているストーリーのおもしろさと、分かりやすいタイトル、そして児童書らしくない装丁デザインの3つがうまく組み合わさった結果だと思っています。

―― 一見、児童書とは思えない大人っぽさがあるスタイリッシュな表紙デザインですよね
 
児童書コーナーに置かれるとはいえ、幼い印象にはしたくなかったんです。本を読むことによって、「背伸び感」を楽しみたい子どもたちもいるはずだと思い、洒落たデザインに仕上げました。

児童書の新しい方向性をつくりたくて、装丁にもこだわり、堅い雰囲気の児童書というイメージを与える上製(ハードカバー)でも軽い並製(ソフトカバー)でもない、中間的なものになっています。背伸びをすれば、ちょっとだけ遠くの景色まで見えるはずです。

――ストーリーについてはどんな工夫がありますか

1冊に30本以上の読み切りを収録しているので、意外性を持たせて飽きさせないようにしています。読者の感想を読むと、「自分が想像した結末よりも意外で驚いた」「こうかな?と思っても、その反対を行くところがクセになる!」という声がとても多く、楽しんでもらえていると思うとうれしいですね。

――飽きさせない工夫とは、具体的にどんなものでしょうか

展開に意外性を持たせて飽きさせないようにしたり、“物語との疑似対話”が起こりやすいような、分かりやすい文章になっていると思います。

子どもたちは、物語を読み進めながら頭の中で結末を想像します。ただ単に著者のストーリーを聞かされているのではなく、「最後はきっとこうなるかもしれない。いや待てよ、違うかな?」などと自分のストーリーを思い浮かべて、物語と対話しながら読んでいるんじゃないかと思うんです。

こうした対話が起きやすいように、文章にあえて隙間を作るというか、疑問に思わせるような書き方をして、「あれ?おかしいな?」と疑問を持たせる。読み進めていってその疑問に対する答えに行き着くと、「なるほど、面白い!」と感じる。そんな構成になっていると思います。

飽きさせない工夫は、1冊の本の中だけではなく、シリーズ全体でも行っています。もともと、「5分後に意外な結末」から始まりましたが、もっと短く読ませるために、「5秒後に意外な結末」を出し、次にその対極である「5億年後に意外な結末」も出しています。

また、テーマを「恋愛」に絞って共通の登場人物を設定した「5分後に恋の結末」も出しています。1編の物語も、シリーズ全体も、「こういう感じでしょ」という読者の予想を裏切りたい、と考えています。 

子どもたちが感じる「おもしろい」は、今も昔も変わらない

――子どもの心をつかむために何か意識していることがあれば教えてください

時代の変化に伴って私たちが使うツールや技術はどんどん進化していきますが、子どもが何かを「おもしろい!」と感じる資質や要素は昔から変わっていないと思っています。だからこそ、自分が子どもだったらこんな話、こんな展開が好きかなぁ、という感覚を大切にしています。

例えば、私が企画・編集をした本の中で「最強王図鑑シリーズ」というものがあります。「動物最強王図鑑」「恐竜最強王図鑑」など、現在7冊発行していますが、これらも、これとこれが戦ったらどっちが強いかなと想像することが好きだった小さい頃の自分を思い出して着想したものです。こちらも売れ行きは好調です。

――いわば演出ですね!

そうですね。いろいろな要素の相乗効果で1つの作品ができ上がっているので、編集者とは、すなわち“本の演出家”と言えるかもしれません。

ストーリーを書く著者はもちろん、装丁やデザイン、イラストなどを考えてくれるデザイナーやイラストレーターの力も大きい。自分が企画した作品をどういうスタッフで作り上げるか。どう見せたら、この本が一番良く見えるか。そういう思考ですね。

あまり子どもっぽくし過ぎずに、子どもも楽しめるけど、大人も楽しめる。大人が好きなものが、子どもも読めるようになったら面白い。そういう目線で、子どもの背伸びしたい気持ちを刺激するのがポイントだと思っています。親子で同じ本を「おもしろい!」と思ってもらえたら、こんなにうれしいことはないですね。

――本に対する敬意や愛情があふれていますね

自分が作りたくて作った本は、自分の子どもみたいなものなので、「この本がどうすれば幸せになるか」ということが、全ての判断基準です。

多くの人に読んでもらう幸せもあるし、特定の人に永く深く読んでもらう幸せもある。幸せの形はさまざまですが、世に出たからには、その本が幸せになる道を作ってあげたい。

お話を聞いた目黒哲也さん

私は編集者なので、ストーリー作りやデザイン、イラストまで全てを1人でできなくても、いろんな人に力を借りて形にすればいいんです。

実際の「子育て」も同じだと思います。親だけの力で子どもが幸せになるわけではないと思うんです。周囲のいろいろな方々の助けがあって、子どもは育っていくのだし、幸せになるんじゃないでしょうか。

――「5分後に意外な結末」シリーズは、朝読書だけでなく実際の授業でも活用できそうですね

このシリーズは実際に入試問題にも使われていますし、読解力を育むことにもお役に立てるかもしれません。1話が短く読みやすいですし、見方を変えると違う意味にもとれる文章や台詞が散りばめられているからです。

また、収録されている作品はオリジナルストーリーも多いのですが、太宰治や芥川龍之介など、名作といわれる古典作品も子どもたちが読みやすいようにアレンジして収録しています。もともとの文章が難しいと敬遠するのではなく、「おもしろい物語」だということを、子どもたちに知ってもらいたいですね。

“学びのスイッチ”を押せれば、子どもたちは自発的に学ぶし動きます。「5分後に意外な結末」シリーズには、子どもたちが夢中になる要素やヒントがあると思うので、授業などで教材として使っていただき、そのスイッチを押せるお手伝いができればうれしいですね。