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YUME YUME BOY

 あなたは、形容し難いほどの醜さに直面した時、何を考えるのか。

 男は皆嘘つきだ。嘘でも言う「かわいい」は、目の前の異性を喜ばせる。
「あなたは18歳以上ですか?」
の問いかけに嘘を付いたことが無い男は、生物学の理へのアンチテーゼだ。

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 目覚ましを秒速で止め、5分のアラームをセットして再び眠りに入る。その5分で奇妙な夢を見た。

「なんだい」

頭巾を被った老婆は、ビルとビルの隙間の闇へと消えていく。俺は老婆を視界に捉え続けるべく、コンクリートの両壁をすり抜けてゆく。

「なんだい…。」

老婆は次第に、恐れを声に滲ませてなお、歩みを進める。月明かりが直上から俺を照らし始めた頃、老婆は壁で行き止まり、その後ろ姿は諦観を感じさせた。振り返った老婆の目玉は、クレーターのように窪んだ皿の底から俺の瞳孔を確かに捉えた。

「なんだい。」

恐れは怒りに変わり、俺に向けられたようだった。いや、俺自身でなく、俺の行動に対する不可解、或いはその不可解故、自身に向けられているようにも感じた。

俺は躊躇無く老婆の首を掴んだ。ギブソンのレス・ポールよりも細い首は、もう少し力を入れると折れてしまいそうだった。老婆は俺の目を直視したまま、ひたすら頭を回転させていた。その振動が腕を伝わり、俺の心を震わせた。

「ピピピピッ」

アラームが部屋に鳴り響いた。玄関ドアから、給湯器がお湯を沸かす音。俺は隣人に負けまいと、重い体をなんとか起こした。遠くで伊予鉄のオレンジ色の電車がたくさんの人を運んでいる。

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