【売春風土記】第2回・怒りの立ちんぼ無双
場所:横浜・日の出町『大岡川』
最初のエピソードは、横浜は日ノ出町の立ちんぼスポット、『大岡川』沿いの路上売春婦(26才)から聞いた体験談です。
話は4年前――。
その日、彼女が『長者橋』のそばで立ちんぼをしていると、付近に住む知り合いのジイちゃんが原付バイクでやって来ました。何だかやけに焦っています。
「なぁ、助けてくれんか?」
どうしたジイちゃん、生活保護でも止められたか?
「おれ、泳げんから。ほらあそこ、助けてやってくれんか」
言われて川のほうを見ると、ダンボール箱が流れてきている。あれがどうしたよ?
聞けば、さっき向こうの橋の上から、頭の悪そうなカップルが、子犬をダンボールに入れて川に投げ捨てたんだそうです。
ってことはなに!? あの中にワンコが入ってんの? もちろんほっとけんし! でもどうやって助けたら?
勢い、長者橋の欄干の上に立ちました。水面までの距離は約3メートル。興奮しているからか、特に怖さはありません。オッケー、行くわ!
ドボーンと飛び込んだあとは、無我夢中でクロールです。くっさ! この川、くっさ! そう言やここって立ちションをするやつが多いんだっけ。最悪なんだけど!
何とかダンボール箱まで辿り着くと、キャッチして橋のたもとの船着場へ。待ち構えていたジイちゃんに引き上げてもらいます。
自分も川から上がると、急いでダンボール箱を開けました。中には、プードルの子犬が3匹も入っている。うち2匹は動かなくなっています。死んじゃってるよ…。
ジイちゃんが顔を歪めました。
「…何でこんなことすんだろうな。あのカップル、たぶんまだ向こうのほうにいるし」
えっ、そうなの…? 自分の中で、理性の神経がブチっと音を立てて切れました。
…そいつらどんな格好してんの? ふーん、ジイちゃん、ちょっと原付貸して。
びしょ濡れのまま原付にまたがる。ブィーンと走り出します。どこだそのバカ2人は?
いた! あいつらか!
「動物虐待すんな!」
叫びながら近づいていくと、原付に乗ったまま男のほうを蹴り飛ばしました。
よし、吹っ飛んだ! 死んだワンコの痛みを思い知れ!
すぐさま原付を降りる。女のほうへ駆け寄っていき、腕を取ってねじり上げました。痛いか? お前も死んだワンコの痛みを思い知れ!
すると、男が起き上がり詰め寄ってきました。にらみ返して叫びます。
「動物虐待すんな!」
うちはブチ切れてんだわ。絶対ひかねーから。
その後は、警察ザタでした。近所の住人が110番したのか、ほどなくパトカーがやって来ます。しかし、事情を説明したところ、橋から飛び降りたことについては怒られましたが、暴れたことについてはお咎めなしでした。正義はこっちにありだっつーの。
――さて現在。
彼女によると、そのとき生き残ったプードル1匹は、ジイさんに引き取られ、今も大切に飼われているそうです。メスだけど名前は『ゴンタ』。スタンダードプードルという犬種なので、現在かなりデカくなっているとか。
そんなゴンタは現在、大岡川沿いの立ちんぼスポットによく散歩に連れてこられています。もし見かけたら、一人の売春婦が“無双”して助けたプードルだと思ってくださいませ。
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