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山で「遭難」しかけた話

昨年の今頃、私は人生初のプチ遭難を経験しました、場所は東京最高峰の雲取山(くもとりやま)へ日原側から向かうルートです。

その時は、山と高原の地図「奥多摩」に付属している小冊子を頼りに歩いているつもりだったのです、そこには以下のように書かれていました。

唐松谷の出会いまで淡々と林道を歩く。
~ 中略 ~
日原林道と別れて左に下り、日原川にかかる吊り橋を渡ったところが唐松谷の出合いである。吊り橋から20分ほどで右手斜面を上がる富田新道が分岐する。

私は上記の案内に従っているつもりで、淡々と続いた林道を左に折れ斜面を下り、確かに書かれているとおりに「吊り橋」も渡ったのです。

すると上記に記述されている通り「斜面を上がる分岐」が登場しました、私はすっかり自分がルート上を歩いているつもりになってそのまま直進しました。

確かに改めて考えると、分岐になんの看板や道標が無いのはおかしいのですが、その時は自分を疑わずに進んでしまいました。

その後、道が次第に不明瞭になりとうとう私は見失いました。

ちょうど登山道らしきルートが枯れ葉に埋もれて消えかかり、不安になり始めたときに撮影した写真が下記のものです。

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なんとなく道に見えなくもない、こんな曖昧な斜面を、さらに進むこと1時間弱、私はついに先ほどまで自分の進行方向にあった道らしきものが完全に見えなくなりました。

引き返そうとしてしばらく来た道を戻り始めて、私は愕然としました。

「あれ?俺どっから来たんだっけ?」

先ほどまでなんとなく登山道だと信じて進んでいた道は、振り返ると単なる樹々の連続で、そもそも道らしきものなど何処にも見当たりません。

しかたなく確たる確証もないまま曖昧な記憶を頼り、登山道らしき痕跡を求めて山の中を3時間程さまよい続けます。

パニック状態になったきっかけ

やがて私は、ある一本の太い木の幹にツキノワグマのものかと思われる爪痕を発見してしまったのです。

今考えるとそれは単なるニホンカモシカの爪とぎあとだったのかもしれません、ただ遭難の恐怖におびえ極度の不安と興奮状態だった私は、その「何らかの野生動物の痕跡」を見て軽くパニック状態になってしまったのかと思われます。

このまま夜になったら熊に食い殺されるのではないか?

そんな不安が頭の中をよぎり、やがて私は焦りから急斜面を下り始めていました。

そして気が付くと不安定な斜面で腐った木の幹を掴み、折れたその幹の一部を手に持ったまま、崖を数十メートル滑り落ちていたのです。

着ていたズボンは破け、膝小僧からは血が流れていました、しかし幸運にも斜面の中ほどで停止した私の耳には下方から「川の音」が聞こえてきました。

山で道に迷って、沢に下りたら死ぬ

これは、小心者の私が登山をはじめた頃から愛読していたドキュメンタリー遭難本の著者「羽根田 治」さんの著作に繰り返されていた文言です。

多くの遭難者は沢に下りて身動きが取れなくなり、やがて死んでしまいます。

その言葉を思い出した私は、必至に先ほど滑り落ちた崖を何とか必死に這って登り始めました。

このまま崖を滑り堕ちたら私も沢で死んでしまうと思ったからです。

数十分かけて私はかろうじて比較的平な箇所に登りつきました。

そして、その後かなり長い間山の中をさまよい歩いた結果、積み重なった木の葉の上にひとつの「空き缶」を発見したのです。

その空き缶は私がまだ遭難する前に見つけていたものでした。

正直その時は「美しい山汚す不届き者め!」と怒りの感情でこのゴミを眺めていたのですが、改めて遭難後に発見した時は生きて帰れることが嬉しく空き缶に頬ずりしたい気分でした。

しばらくして、私は自分が道を迷うきっかけとなった分岐にたどり着き、林道を引き返して帰路につきました。

途中、車で来ていた別のトレイルランナーの男性が、ボロボロの私を見かねたのか車で奥多摩駅まで送ってくれました。

その方に事情を話すと、「え?そんな道に迷うような山じゃないでしょ?」と笑っていました。

いやー、お恥ずかしい限りです。

ちなみに崖に落ちた直後にパニックになっていた私は、何故かスマホのシャッターを押して写真を残していたようです。

その時の写真がこれです。

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そもそも何故こんな急斜面を下ろうと思っていたのか?
あと、なぜ死にかけてるくせに写メしているのか?

自分自身でもよくわかりませんが、あらためてパニック状態になるって本当に怖い事ですね。

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