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寿司職人養成学校へ入ると海外移住の夢は叶うのか?私が志した寿司職人の先にあるもの

25才だった私は海外へ移住したいという夢を抱き、故郷から上京して寿司職人への道を目指した。寿司職人養成学校へ入って私の夢は叶ったのか。

私が寿司職人養成学校の存在を知ったのはドキュメンタリーかニュース番組で、当時「寿司職人になるのに長年の修行は必要なのか?」というテーマが当時賑わっていた時のこと。

そのテーマの本質は置いておいて、管理栄養士の資格を取る大学へ通っていた私は、食に関する仕事に元々関心があったため寿司職人養成学校へ入学することをあっさりと決意し、未知の世界へ踏み込もうとOLを辞めて上京しました。

学校の費用は1年制で前期、後期と合わせて150万円程。その他に入学金が15万円、包丁代が7万円前後なので総額170万円ぐらいでしょうか。決して安い買い物ではありませんね。

学校のスケジュールは入学してから数ヶ月、実技や座学で寿司職人としての基礎的な技術から店舗経営と多岐に渡って学びます。そして後期は実際に寿司屋で有給インターンとして働きます。

インターンではただ働くだけではなく、高級店・中級店とそれぞれの違いを身を以て学びます。これらの内容を入学前に聞いた時は、未知の分野を学ぶことや社会人を経てもう1度学校へ行けるという期待でワクワクしていました。

しかし入ってみると、私にとっては試練の連続だったのです。

まず1番最初の授業は職人の命とも言える包丁の研ぎ方から教わります。私は講師の話を聞いてる時や実際に自分がやってみた時も、まるで自分じゃない全くの他人が授業を受けているような感覚で全く耳に入ってこなかったんです。授業に全然ついていけなくて、自分が何を質問したいのかも分からないレベルでした。

まだ初心者だからという理由で済めば良かったかもしれませんが、私の頭の中はまともについていくことが出来ず常にパニック状態でした。

実際に魚を扱う授業が始まると、まずは小型の魚をおろすことから始まります。そして最終的には大きな魚や魚以外の海鮮類(貝やタコや穴子等)をおろす様になります。同期の人達はほぼ私と同じように、未経験の人達が殆どにも関わらず皆んな手際が良くて、おろし終わった魚も美しくクオリティが高いのです。

対する私は魚をおろすのがとても遅く、何百匹と魚をおろしても自分が納得出来るような綺麗な仕上がりまでには中々上達しませんでした。周りが卒なくこなしていく中、ワンテンポ遅れていた私は焦り、自分を惨めに思いました。入学する前はあんなに楽しみにしていたのに、毎日の授業に追われる私はいつの間にか胸に苦しい気持ちを抱えながら通学していたのです。

さて本題の「寿司職人学校へ入学したら、海外移住への夢は叶うのか?」ですが結論から言って、私の場合は寿司職人として海外就職は出来ませんでした。いえ正確に言うと寿司職人としての自分の能力や情熱・モチベーションに限界を感じて挫折したのです。

私は在学中と在学卒業後に海外での2店舗にて面接を受けました。

1度目は学校の冬休み中、渡航先のお寿司屋さんへ求人を募集しているか直談判をしに行ったり、また現地の日本人会に求人の当てはあるか電話で問い合わせたりしてとにかく入り口を探し続けました。私にはコネなんてものは最初全く無かったので必死で闇雲な状態でした。

結果的に直談判をしていたお店の中の1店舗がちょうどタイミング良く人を探していて、そのお店の本社があるフランスのパリまで遠征して日本人のオーナーと顔合わせ・面接をして頂けました。しかしその後連絡を必ずしますと言われたまま、帰国してから1度も返事が来なくなってしまいました。

(後ほど何度か問い合わせると、その会社自体に何らかのトラブルが起きて人を雇う所では無くなってしまい、連絡が出来なくなってしまったとの事でした。)

2度目は卒業直後に偶然来ていた求人を、学校の求人課の方が紹介してくれました。そこは日本人オーナーではなく現地のオーナーが経営している高級日本食レストラン。待遇もすごく良かったのですが、最終的に自分の実力不足で不採用となってしまいました。

それから私は卒業後も和食屋さんや寿司屋さんで仕事を続けていましたが、結果的に”寿司職人として”海外就職へと挑戦するのは挫折してしまいました。

元々自分の行きたい国に移住するのが第1目的だった私。未経験からこの寿司職人の業界に入り、理想だけではないハードワークや続けていくことの大変さを知りました。私にはこれ1本で続けていく情熱と気力が徐々に失われていっている事実を持ち直す気力が残っていませんでした。

通常は養成学校を卒業後、技術をより深めていく為に寿司屋や和食レストランに就職し、数年修行を積んでから海外へ挑戦する卒業生が多いです。しかし私は恥ずかしながら、自分の夢を叶える為に数年修行を続ける忍耐力も持ち合わせていませんでした。

しかしこれはあくまで私の場合。勿論実際に夢を叶えた人も数多くいます。

「数ヶ月間寿司の技術を学んで夢の海外移住!」というキャッチコピーがありますが、これは本当に人それぞれの状況次第です。

元々海外に在住していてレストランやケータリングを開業したいから一時帰国して学校へ入学したという人もいれば、卒業後すぐにワーキングホリデー等の制度を使い海外へ渡航していく人達もいます。元々ビザを持っている人達やワーホリのビザだと受け入れ先も多くあるでしょう。

何といっても1番大事なのは海外で生活・働くことの出来るビザです。海外のレストランを経営する大抵の会社は、日本=海外からやってくる寿司職人に就労ビザを発給する為に、多額の税金を政府に納めないといけない国もあります。なので日本から来る寿司職人には何年かの経験や技術を求めるケースが多いです。

寿司職人の技術やタイミング・運・コネクションや移住先の国の状況に左右されるので一概には言えません。しかし特に私が現在滞在しているヨーロッパでもビザの発給は世相に応じて厳しくなっています。

また寿司職人向けの海外求人サイトもあり、見習い募集といったものも稀ににあったりしますが多くの求人は料理長・副料理長などすべての業務を含めてこなせる人材を募集していることが多いです。

なのでOBの先輩方や私の同期の卒業生の中でも、卒業後は数年寿司屋で修行を積んでから海外へでていく人が殆どでした。

現在の日本ではどこの飲食店でも人手不足のこのご時世、寿司屋も例外ではありません。以前は珍しい目で見られていた、寿司職人養成学校で一通りの技術を効率良く身につけた卒業生への求人は引く手のあまたの状態。

日本に名を馳せる有名な高級寿司店から行列が出来る話題のお寿司屋さんまで、海外への移住を希望した寿司職人達は毎日のハードワークに耐え抜き、乗り越え、実際にNYやドバイ、タイへと海外への夢を叶えていっています。

長々と書き連ねてしまいましたが、以上の私の経験と挫折・他の方々の卒業後を見聞きした私の経験から言えることは、あなたが歩んでいく人生において、自分の見据えた未来ややりたいこと、住んでみたい国、常にどんなに小さな欠片のようなものでもいい。チャンスやきっかけが見えたら勇気をだしてそれに近づく世界に飛び込んでみて欲しいと思うのです。

私のようにめちゃくちゃ惨めな思いをするかもしれないし、完璧な理想に近づけるかどうかは分かりません。ただすぐに結果が見えなくて不安でも、常に自分の欲しいものを見据え、自分のスピードで時々後ろを振り返りながらも少しづつ前進していれば、限りなく近づくことはできます。

環境や他人が自分を変えてくれるわけではありません。夢ややりたい事を叶えるのはいつだって自分自身。私が勇気をだしてほんの少し起こしてみた行動で、自身の世界が一変に鮮やかに変わるかもしれないのです。だから小さなチャンスでも見逃さないで。

海外へ移住したい夢を掲げたものの、自分の歩んできた道は挑戦したり行動を起こしてきた分、それ以上に多く失敗してきました。沢山惨めな思いもしたし、非力だということを痛感させられたことも多かったです。人には言えない恥ずかしい経験だってありました。

理想通りにはいかない私の軌跡でしたが、私は寿司職人として夢を追いかけていた道の途中で沢山の人に助けてもらいました。学校の先生や同期の人達、アルバイト先で出会った方達や海外で出会った人達。これまで自分の進みたい道を歩んできた中で沢山の出会いがあったおかげで縁にも恵まれ、今は念願の海外に在住しており、寿司職人の仕事が中心ではありませんが食に関する仕事に就く予定です。

最後に、寿司養成学校に入学前の期待で満ち溢れている自分に一言何か言えるとしたら、「これから自分の思い通りにはいかなくて予想以上に落ちこみまくるし波乱万丈になるだろうけど、4年後には夢を叶えてるから、それまでにいっぱい冒険しな」と言ってあげたいです。

ここまで読んでいただきありがとうございました。



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