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読書記録#1 デュルケーム『自殺論』

雨の日のセーヌ川(ノートルダム大聖堂付近)。
2018年3月撮影

社会学という学問

社会学と聞いてイメージするのは、やはりジェンダー、フェミニズム、リベラル…といった、近年の「流行りの」キーワードだろう。

実際、社会学は比較的新しい学問である(19世紀、コントが初めてla sociologieという言葉を出したとされる)。
学問上は社会科学に大別されるものの、その論の進め方は統計、実験、個人的経験に基づくものと多岐にわたる。そして個人が存在して今を生きるその空間に着目している。

デュルケームは社会学の草分け的存在として知られるが、彼の最も著名な作品が『自殺論』である。

個人的な動機

ここからは些かパーソナルな話になるが、私は社会学を大学で学んだこともないし、放送大学の授業を履修していた程度である。

そもそも私はかねてより精神世界、宗教、哲学に関心があった。肉体的な「死」は一人一人に一回平等に起こるものとされる。その死に自ら敢えて向かうことは人間のどのような感情に結びついているのか、または感情がなくなった時であるのか。このようなことを考えることがあった。 

キリスト教的価値観においては、自殺は肯定も否定もされない。それはイエスが進んで死を受け入れ原罪をあがなったこととも密接に関係しているように思われる。学校の聖書の時間では、常に自殺はタブーの話題であった。だからこそ、宗教とは違った観点から捉えてみたいという気持ちが私の中に芽生えたのかとも思う。

長くなってしまったが、少しずつ本文の内容に入っていきたい。

自殺の諸要因の分析 

後述する自殺の3類型があまりにも有名であるため、それ以外の箇所について社会学の概説書で触れられることは少ない。

ここでは折角なのでそれらに触れてみることとしよう。

デュルケームは、個人と社会の関わり度合いによって自殺の類型を規定することを目標としており、それ以外の要因については一定のデータの相関は認めつつも、基本的には否定するスタンスを取っている。

例えば、自殺は精神的疾患(敢えてこのような書き方をする)であるとか、気温や湿度といった外的要因に求めるとか、その類のものだ。

統計的には夏が自殺のピークに達するらしい。冬の方が鬱々とした気分になるのでは?と思いがちであるが、夏の暑さによる異様なまでの興奮の高まり、そして行き過ぎた外向的な振る舞いが自殺に繋がりやすいのだという。

自殺の3類型

  1. 自己本位的自殺

  2. 集団本位的自殺

  3. アノミー的自殺

自己本位的自殺


社会と個人の緩やかな結びつきに着目する。
個人が市民権を得ている社会においては、個人はさまざまな自由権を行使、享受することが可能である。その反面、一定のコミュニティーへの所属が確約されなくなることによる精神的不安が生じるのだという。これにより引き起こされる自殺を指していう。

集団本位的自殺

自己本位的自殺の対立概念とされる。軍隊など、集団の規律が非常に厳しいために個人の自由が保障されない社会においては、進んで命を絶つことに抵抗がない。明治天皇崩御後の乃木希典の殉死(後追い自殺)もこの類型に含まれるかもしれない。

アノミー的自殺

自己本位的自殺と同様の社会的状況を想定しているので混同されがちであるが、こちらは個人のとめどなくあふれる欲望にその論拠を置いている。即ち、個々の人間が激しい欲望を抱き続け、その限界がやって来たときに、絶望を感じるために引き起こされる自殺である。

労働による連帯は可能か

デュルケームは、もちろん自殺に対し諾う態度ではなく、最後にどのようにしたら自殺を防ぐことができるのか、その方法を提示している。

それがこのタイトルである。

同業組合という組織を設立することこそが自殺の抑止力になるのだという見解である。

果たしてそうなのだろうか?

確かに、同業組合の中では、雇用者と被用者が契約関係で結ばれており、内部でも独特のヒエラルキー構造が存在している。
労働者は一定の制約を犠牲にして、自由をも獲得できる。そして同時にあらゆる欲望もある程度は昇華することができるだろう。

理想的な組合の中ではそうだろうが、労災、ハラスメント、厳しい帰属意識に苛まれ、仕事によって自殺を決意する人も少なくないのが現実である。

少しばかりの感想

この研究の画期性は、主観的要素を全て排除したところにある。哲学における死の考えは、ある程度理論に立脚していたとしても、客観的数値を提示するところまでは至っていないのである。

その点、データのサンプリングがフランス、ドイツに偏っているところは欠陥と言わざるを得ないものの、社会学の研究とは何か、という原点に立ち返る際には彼の研究は大いに参照されるべきであろう。

他にも、本文には興味深いデータがあった。

  • 既婚者は未婚者より自殺率が低い。

  • カトリック教徒はプロテスタント教徒より自殺率が低い。

後者は教義によるところも大きいと思うが、どちらも集団への帰属意識の強さが関係している。
(これが抑止力になっているのだが、強すぎると集団本位的自殺に移行するようだ。)

社会学の前提知識がなくても十分に読み進めることができるが、同じデータを複数回参照することがあるのでKindleでの閲覧はあまりお勧めできない。

最後までお読みくださりありがとうございました🌸