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映画、という旅の途中で

クリスマスに映画を見る

年の瀬も近づき、今夜はクリスマス。
でも、別に個人的にパーティーの予定はない。
そんな世の中の押し付け行事はとっくの間に卒業したから。
若い頃はそんな世の中に憧れ、すねたりしたものだが、彼女がいるいない、一緒に過ごす人間がいるいないなど、今さら嘆く年でもない。
と、いうか、充分すぎるくらいに楽しんだ反動かも(笑)
今では映画と本と音楽、競馬と少しの酒があればいい。そんなわけで、クリスマスに関係ある映画を観ることにした。有馬記念で競馬を締めくくる午前中に。

選んだのは「34丁目の奇蹟」。1947年のアメリカ映画。最初に見てから実に30数年ぶりの出会い。これが実に今の季節にふさわしく、そして感動的な一本だった。

そもそもクリスマスを否定する私が感動する、とは何をやいわんかだが、別にこの映画のテーマを否定したわけではない。この映画はサンタクロースが実在するか否か、という話を実に巧みにファンタジーにした一本。かつてのハリウッドは特撮なんかを使わずにファンタジーを描いた。
クリスマスシーズンのニューヨーク。有名デパート、メイシーもまたサンタクロースの衣装を着た老人が客寄せをやっている。が、一人の老人が酔っ払いテキトーに仕事する姿に激怒、販促係の女性は彼の外見がサンタクロースにそっくりと彼を雇うのだが、なんと彼は自分を本当のサンタクロースだと信じていた。
ここまでなら、ちと頭のおかしい老人の話。だが、彼の子供たちに対する温かい眼差し、そして欲しいプレゼントがないお客に違うデパートを勧め、むしろメイシーの株を大いに上げた事から一躍注目の人に。しかし彼がある精神科医を殴った事でサンタクロース騒動がその存在を巡り裁判にかけられることに。

サンタクロースを名乗るその老人が本物か否か、を裁判で証明する。もちろん現代を生きる大人はそんなものは存在しない、と知っているがゆえにその老人の戯言を小馬鹿にするが、彼の存在によって人生を変えられた弁護士は巧みにその老人が本物のサンタクロース、だと証明していく。彼を起訴した検事の子供を証人にして、父親は嘘をつかない、彼はサンタさんはいると言っているとやってみたり、全国から送られてくるサンタ宛の手紙をごっそり裁判所に届けてみたり、と現実とは裏腹にサンタを信じる人々の声が大きくなっていく。

私事だが、子供の頃、私の家は毎年クリスマスのプレゼントはお菓子の入った長靴の詰め合わせだった(笑)。友達がクリスマスプレゼントとして豪華なものをもらってる事を羡ましがり、母親に言ったら、
「人は人、うちはうち」
と、けんもほろろに返されてしまった。だが、それ以来人を羡む事はなくなった。見栄や人に合わせるより、背伸びしないで生きること。そんな哲学を教えてくれた母親は私にとってのサンタ、だったのかもしれない。

結局、その老人がサンタクロースであると便宜上には証明されたが、納得しないのは主人公の娘。本当のサンタさんなら、約束したプレゼントをくれるはずだ、と。でもそのプレゼントは大きな家。そんなものを要求する子供に現実的な我々はクソガキが、と罵りそうだが(笑)、サンタの老人は粋な形でそれをあたえることに。
その辺りがいかにもセンスを問われる、まさにハリウッド黄金期の傑作。
この作品で素敵なのは、ヒロインのモーリン・オハラが手紙でサンタの老人に、
「あなたを信じています」
と手紙を書くシーン。元々はサンタクロースという存在さえも信じず、娘に社会の現実とやらを押し付ける教育を与えようとしていた彼女がいつしか人の心を取り戻す、その英語は
〈I believe in you〉
さて、この言葉とI believe youの違いは何か?
どちらも日本語訳ならあなたを信じる、だが、inがつくとあなたの「内面を」、つまりあなたの全てを信じる、つまりあなたがサンタであると信じる、という意味になるのだ。
そこまでサンタ懐疑派のヒロインが変化する。サンタクロースとは空想の人かもしれない、でも何かを信じる心があればやがて夢は現実化する。人間のイマジネーションの素晴らしさを讃える最高の言葉、それが、
I believe in you
そんなヒロインと娘、そしてサンタを弁護した青年(当然ヒロインと恋に落ちるわけだが)に起こるラスト。
少女が望んだ家=homeの意味とは?
粋、ですなあ🎵

今年もそろそろフィナーレを迎える。
流行り病も一定のメドが見えつつも、未だに仮面を手離せない人々に、世界恐慌かと思わせる物価高と燃料費高騰、戦争の終結も先送り、ワールドカップの熱狂で一時の溜飲を下げる間もなく、我が国は防衛のための増税だの、マイナンバーカードの強制だの、この国は本当に民主主義なのかを疑わせる毎日、と、不愉快な日々が来年も続くかと思うと、せめてサンタクロースさんよ、世界平和をプレゼントしておくれ、と祈りたいところだが(笑)

本日の映画。
「34丁目の奇蹟」1947年作。
監督 ジョージ・シートン
出演 モーリン・オハラ、ジョン・ペイン、エドマンド・グエン、ナタリー・ウッド

ちなみに本作はリメイクされている。いい話は何度も時代を超えて映画になるのかな?



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