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AI市長候補に結局投票しなかった話

東京都多摩市の市長選挙にAI市長候補「松田みちひと」が出馬した。
投票日は昨日(4/15)だったのだが、結論から言うと投票しなかった。

せっかくこういった事例が現れたので、今後同じように他の自治体でAI政治家が出馬した時のためにも、どのような思考プロセスで投票に至らなかったかを記録しておく。

他の候補者は至って普通なので、その異様さが際立つ。

ググってみると、いろいろな記事は見つかるもののいずれも可能性を示唆するものに留まっており、実際に運用しているという例を見つけることはできなかった。

前提

直前にインタビュー記事があがっていたので、こちらを是非ご覧いただきたい。下記に一部抜粋した。

松田さんが今回の多摩市長選への出馬を決めたのは、4月8日の告示4日前の4月4日。「無投票当選は防ぎたい」という理由からだった。
松田さんは国内の大手IT企業勤務や外資系企業の代表を務めるなど、約20年間IT業界に関わりテクノロジーへの理解は深い
「99人が幸せで、1人が死ぬという政策が良いのか、50人がそれなりに幸せで、残り50人が少しだけ幸せな政策。どれが良いのかは人それぞれ。それを問うのが選挙や市民とのコミュニケーションだと思っていて、将来的には複数のモデルを提示して、有権者が選ぶ形にしたい」(松田さん)
「最初は市長の給料を1円にして、AWS(Amazon Web Services)の費用だけ下さいと言おうと思ったが、市長の給料は責任に対する報酬だと思う。AIが失敗したときに、誰が責任を取るのか?それはやはり人が取らないといけない。何かあった時に賠償責任は市長が負う。自動運転もそう。責任を問うという意味で市長のポジションは必要」(松田さん)

出馬の動機が、個人的には弱いなと感じたものの概ね考え方については同感できる。

特に、市長とAIについての分離については同感で、AIにすべてやらせようという考え方でなく、最終的な判断による責任は市長が負うというのは正しいあり方なのかなと思う。

さて、次は公式ホームページを見てみる。

何とも言えないアバンギャルドな背景(しかも、アニメーション付き)が気になるものの伝えようとしていること自体は理解できる。

政策・公約

政策と公約がカルーセルで並んでいる。

◎AI自動走行の推進(高齢者の移動手段確保、事故減少、カーシェア)
◎AIによる予算編成(税金の無駄遣い廃止、減税)
◎永尾副市長の更迭
◎交通空白地帯の解消
◎仮想通貨TAMAコイン発行(多摩市をICO、地域活性化)
◎AI市長によるチャット相談

バズワードまみれで、だんだん不安になってくる。「永尾副市長の更迭」というワードが逆に目立つという状況。
それぞれ具体的な案が一切ないように見えるので、伝えようとしていることはわかっても納得感がない。

こちらは今回の選挙公報。
不適切な報告書を発見したとのことだが、どのような人工知能がこれを発見したのかが分からないため、逆に不安になる。

このあたりまで読んでいくと、いくつかの疑問が生じる。

1. 政治の専門家ではない人がどのようにモデル設計を行えるのか?
2. 当選後からモデル設計を始めるのか?いつから稼働が開始できるのか?
3. 仮にモデル設計がうまくいかなかった場合のリカバリ手段はあるのか?
4. 透明性を担保とはいうものの多くの人に理解できる形で公開されるのか?
5. チャット相談は誰をターゲットにしているのか?
6. ICO…どういうスキームでやるのか?

出馬を決めたのは告示の4日前ということで、こういった疑問にこたえられるだけの事前準備がなさそうに見えたことから、今回は投票しなかった。

何を満たせば投票したのか

それでは、何を満たせば投票したのかを考えてみる。
端的に言ってしまえば、先程の疑問にすべてこたえられるなら間違いなく投票した。

1. 出馬前からモデル設計が行われ、実際にパブリックな場で運用がされている
2. AIの回答パタンに対して、どのような判断を市長が下すのかがパブリックな場で実験されている
3. AIの回答パタンはときとして人間には理解できない場合がありそうだが、それに対しての人間らしい理由付けができる
4. 現実的な落とし所についての考慮がされている

それなりに情報ソース(たとえば予算案、議事録等)は公開されているはずなので、それらを元にどのような回答を導き出すAIを設計できるかがキモとなるはず。

それができないのであれば、リカバリ手段として政治経験のある副市長に権限を移譲させるなど、の代替案が考えられているとAIはあくまでツールであり、頼り切るものではないという考えが見れてより良いと思う。

まとめ

ここまで書いて思ったが、結局モデル設計を行えるのはエンジニアになると思うので、政治のエキスパートとエンジニアがタッグを組んで政治を行うというアプローチが良いのかもしれない。

今回は投票まで至らなかったが、AI活用の市政は非常に可能性があると思うので、ぜひとも現実的な案まで固めてから出馬してほしい。

投票結果


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