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あの日のトラウマが消えない

長崎で、祖母に地元のデパートによく連れて行ってもらっていた。長崎では繁華街へ行くことを「街へ行く」という。
だいたい毎月1回日曜日に、弟と一緒に連れて行ってもらって、お昼ご飯にデパートのレストランでお子様ランチを食べて、屋上の小さい遊園地みたいなところで遊ぶのが至上の楽しみだった。
実際、地方の同年代の子供の楽しみはそんなもんじゃなかったのだろうか。

あれは小学4年生ぐらいだったと思う。
その日曜日、デパート屋上にテレビでやってる戦隊モノのヒーロー5人組がやってきた!
当然少年だった私はワクワクしていた。
地方の長崎では、こういうヒーローショーをやるのは年に数回しかないレアなショーなのだ!

ヒーローショーは屋上の小さなステージで始まり、悪い怪人と戦い始めた。そして、怪人は最前列の子どもをいじりだし、その子どもは泣き出し、それをヒーローが救助するというお決まりのパターン。

でも、私は手に汗握ってヒーローを応援した。頑張れ!負けるな!

あー、最前列に座ってたかったなー。でも、祖母はヒーローショーに興醒めでめんどくさそうで、最前列には陣取ってくれなかった。それどころか祖母は早く帰りたそうだった。「ねー、まだみるの?こんな子どもだましみたいなショー」
私と弟は、ヤル気のない祖母のおかげで、最後列と言ってもいい程後方で見ざるを得なかった。

私は子どもだから、子どもだましのショーを見て、興奮してもいいはずだ。なぜ、見てはいけないのか。子ども心に納得がいかなかった。

やがて、ヒーローは必殺技で悪人を倒し、ショーは終了した。みんな拍手喝采だった。遠巻きに見ていた私も拍手喝采を送った。

私はこういうライブ的なショーが好きみたいだとこのとき気付いたのは、これが最初だったのだろうか。
だって、テレビに出ているヒーローが、生で私の目の前で悪人倒すんだぜ!こんなライブ的なエンターテイメントが面白くないわけない!

そして、ヒーローショーの後には、お決まりのヒーローによる握手会&サイン会が始まった。あーー、なんだかワクワクする!ヒーローに直に接触できるなんて!私は参加できる気まんまんでいた。

しかし、急転直下、祖母は「握手会って、有料で500円もするやん。お兄ちゃん、しょーちゃん(弟)、あのヒーローの着ぐるみ中にはそのへんの雇われのおっさんが入ってるだけなんやで。本当の人は入っとりゃせん!だから、こんなサイン会とかインチキたいね!500円もったいないから帰ろう。」と、とてつもなく醒めた言葉を投げつけて、私のワクワクする子ども心をぶっ壊そうとする。

それでも弟は「えー、でもサイン欲しいなー」と言う。
祖母はやれやれ仕方ないという顔をして、弟に財布から500円を渡し「お兄ちゃんは年上やから、こんな子どもだましなショーってしょうもないってわかっとるから要らんよね」と決めつけて財布をパチンと閉じた。それと同時に私のヒーローからサインを貰う希望も閉じられた。

「え、あ、えーと、うん。握手とかサインとか、こ、子どもがするもんたいね...僕は要らんわ...」なぜか唇が震えた。

500円を握りしめた弟は、握手会&サイン会の列にワクワクしながら並び、そして終わって嬉々として戻ってきた。
「さあ、帰ろうか。あーしょーもないイベント長かったわー待つだけで疲れた。」祖母はつぶやく。

帰り道、弟はヒーローのサインを眺めて嬉しそうにして、私に自慢してくる。
私は弟の兄であるという理由だけで、握手やサインをもらえない理由をまだ齟齬できずに、果てしなく悔しかった。

何故?お兄ちゃんだから?ヒーローの中身はおっさんだから?でも、僕は握手して欲しかった!サイン欲しかった!なんでおばあちゃん500円くれなかったの?大きくなったら、自分お小遣いで握手会行けるの?イベントに自分のお金で行けるの?

いろんな何故とそれをどうしても受け入れることができない私は、涙がとめどなく溢れてきて、号泣に変わった。

「お兄ちゃん!なんで泣いとるとね?お兄ちゃんのクセしてやっぱりサイン欲しかったん?しょーもないことで泣かんときや。みっともない!」と祖母に叱られた。

そうさ、当時のオトナからみれば、ヒーローとの握手会なんてどうでもいいことだったんだろう。でも、私にとっては、後世、いや一生残る巨大なトラウマとなり、現在の私の生活に大きな影響を与えている。

そうなのだ。これがトラウマで大人になって自分でお金を稼ぐようになってから、毎週アイドルライブ&握手会に通うようになってしまったのだ。

それは、35年前のたった500円でできてしまった少年の頃の僕のトラウマ。

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