夢とうつつ (短編小説)

 一貫性のない、思考にもならない、支離滅裂の混乱した精神、夢から半分目覚めたけれど、まだ完全には起きていなかった。もぞもぞ布団の中で身体をよじらせると、足先がポカポカしていた。布団の中もポカポカしていた。支離滅裂の混乱の余韻を味わうように、夢の続きを空想しようとしたが、そもそもどのような夢だったのかすっかり忘れてしまって空想することもできない。
 ただ一言だけなんとなく思った。

  「なぜ俺はこんなふうになっているんだ」

ずぶ濡れの雨のイメージにその一言を叫んでいる俺がいる。今は布団の中にいて、昨日と今日を記憶が橋渡しするまで、俺はなぜ自分が布団の中にいるのかわからなかった。やがて記憶が頭のあたりからすっかり生まれてきて、ああそうか、俺はこれから仕事に行くんだなと思った。記憶がなければ昨日と今日には何のつながりもありゃしないだろうとも思った。記憶は突然生まれたがあまりにも当たり前に違和感なく俺の中に存在しているから、過去から現在にかけて俺がずっと継続していたということの、まさにその生まれたての記憶自体が、証拠になっていた。俺はだから布団から這い出て、パジャマを脱いで冬の外気を感じながら、一方的に運命として決めつけられたような日常をやり遂げるために、服を着替えた。エアコンをつけたが、なかなかエアコンは作動しなかった。
 その日に限って何だか俺自身も作動しきれなかった。本当に昨日と今日にはつながりがあるのかな。

 「なぜ俺はこんなふうになっているんだ」

 生まれたばかりのくせに俺の中にすっかり定着している記憶に対抗するように、俺の中の違和感が「なぜ俺はこんなふうになっているんだ」と主張した。記憶の一貫性を夢の不合理性が凌駕した。夢の中で一体俺は何をしていたのだろうか。そもそもこっちが幻じゃないのか。記憶と思っているものは、どっかの誰かに植え付けられた(なすりつけられた)だけの紛い物で、実は夢の中こそが現実じゃないのか。なぜ俺はこんなふうになっているんだ。夢から覚めたのに、俺は一向に夢から覚めなかった。

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