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【創作】叢雲伝

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叢雲伝 〜転1〜

叢雲伝 〜転1〜

〜大和路は王子斑鳩法隆寺
 厩の宿に眠る旅人
 叢雲の剣の鞘に込められた
 戦のない世の道標
 大陸の荒ぶ風の音いつの日か
 和の民座す大和斑鳩〜

 稲の若草に朝露の宿る香りに包まれ、私は目を覚ました。昨日出会った者は何者であろうか。宿を借りた礼を言わねばと思い、主人を探した。けれどここは、そもそも馬小屋ではなく、何かの道具置き場である。馬すらいない。
 平野を駈け抜ける一陣の清らかな風。昨夜の

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叢雲伝 〜承2〜

叢雲伝 〜承2〜

 この地に入りてから、幾許か季節は巡った。民の生活は滞りなく、少しずつ人々の数は増えてきているように感じられた。
 少しばかり、私には自由が与えられ私はひとり野辺を彷徨った。何も目的を持たずひたすら彷徨っていた。自ら深く呼吸をする。そしてひたすら彷徨い歩く。帰る家はある。私は必要とされて邨の警備に就いている。
 近江の海は南岸から流れ出ていずれは大海に注がれていく…
 私は川の流れの行き着く先を見

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叢雲伝 〜承1〜

叢雲伝 〜承1〜

 行き交う人々の好奇心を刺激する異国の香辛料の匂い。聴きなれない言葉や唄が聴こえる。何故かどこか懐かしい旋律。米の粉であろうか。蒸されている異国の食べ物に私の心は揺らいだ。そんな折に雑踏より私を呼び止める声があった。
「そちらのモノノフの方よ。こちらへ来られよ。強飯を摂られよ。」
 白髪の老婆の勧めるがまま、私は飯を食べた。異国の言葉の食物であったが味は深みがありひとつ、ふたつと食は進んだ。
「そ

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叢雲伝 〜起〜

叢雲伝 〜起〜

曇りの日はなぜか時空の軸が
繋がる…

あの方の住むあの都へと…

 湖面より立ち登る霧。春の霞と相まって て、辺りには土の匂い、葦原の匂い、梅の香りが漂っている。無風。凪の水面に何か大きな魚が水面近くを泳ぐ。白鷺は歩みながら小魚をついばむ。

〜彼の地は
 もののふさきわう近江の海
 ますらお育む伊吹山
 彦根長浜竹生島
 浅き夢見し酔ひもせず
 都は大津、近江の大津
 逢う津、逢う坂、黄泉比良

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