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【映画】劇場版バーニング(2022年1月10日)

村上春樹の原作は未読。だが、エッセンスはそれらしいのにきちんと(?)エンタメとして昇華されておりかつ韓国の背景も織り込まれたオリジナリティがあるところがさすがだな、と思った。

ミナリ」をみた後、あの頑固おやじがこのいけ好かない野郎だと知って、かつ見ようと思っていた「ドライブ・マイ・カー」がいろいろ受賞したからかなぜかアマプラから消えてしまっていたので、2年近くお気に入りに入れて放っておいたのを後悔しつつようやくみたが、とてもよくできたいい映画だった。

韓国映画をみていると、朝鮮戦争、独裁政権、アジア通貨危機など政治的・社会的背景を、程度の差こそあれ必ずといっていいほど盛り込んでいるが、それが「盛り込まざるを得ない」ほど韓国に大きな影響を与えているものなのか、あるいは映画作りのフォーマット的に意図的に入れる習慣があるものなのかわからないものの、いずれにしてもとても上手なので感心する。だって、それなしに「個人の生活」のみで語れるはずがないと思うから。「サニー 永遠の仲間たち」が描くのは、火炎瓶が飛び交う中でも少女たちは友情をはぐくんだり成長にもがいたり恋をしたり悩んだりしていたという、当たり前のそして韓国ならではの風景だった。

この「バーニング」ではそこまで大きなテーマとしては扱われていないが、主人公イ・ジョンスの父親は喧嘩っぱやいせいで逮捕されており、年代からしてもしかしてさらにその父親(ジョンスの祖父に当たる)から暴力など受けていたのかな、そしてそれは朝鮮戦争帰りのPTSDだったりするのかな、など、個人の性格や事情に消化しきれない重荷を背負わされているのではと想像してしまう。それは、舞台となっている北朝鮮との国境沿いと流れてくるスピーカーの音ももちろんそうだ。

ソウルとこの国境添いの町をポルシェで行き来するいけ好かない男性が、村上春樹の小説っぽいし、めんどうくせー女ジン・ヘミもそうだが、この二人の存在をめんどくせーで終わらせずに背景を描き結末まで描いている点で、エンタメ化の鬼おそるべし、と好印象。もちろんこの点は好みが分かれるだろうからハルキストの意見をぜひ聞きたい。ミステリーにするな、っていう意見も多いんじゃないかな。エクスキューズ的に裸シーンなどエロ要素(この映画では不要だったように思う)をいれてハルキ感を保っているが、もはや別の作品な気もする。

というか、いまWikipediaを見て初めて知ったけど、NHK放送時は、スティーヴン・ユァンの吹き替えを萩原聖人がやっていたのか!顔そっくりだとおもったけどさ!すごいな。
スティーヴン・ユァンは、「ミナリ」では非ソウル出身の役で、こちらではカンナム在住の謎金持ち。しかしどちらも所在なさげで、とてもいい。韓国語のニュアンスなども韓国在住韓国人からしたらもしかしたら少し違うのかな・・・。
最初の方でジョンスが「何をして儲けているかわからない人が韓国には多い」と言うが(ギャッツビー、という表現もハルキへの当てつけなのかはっとした)、それはどこも同じで、かつなんというか、お金持ちがうらやましいという気持ちよりも、純粋に気味が悪い、という気持ちの方が強い。と私は思っていたしジョンスもそういう意味で言っているように思えた。何に対して誰がお金を払って自分の給料になっているのかわからないことに不安を覚えないでお金を増殖させて生活できる、ってなんか実態がない。別に第一次産業が偉い!と言いたいわけではなく、どんな仕事もたどれば誰かがお金を払っているはずなのに、その顔が見えないことに疑問も不安も抱かない人って、なんか別世界にいるようだ。「気味悪くないのかな?」、って気味が悪くなる。いわゆるブルシットジョブと言えばそれまでなんだけど、もっと錬金術師に近いというか。

最後に猫(ボイル)も出てきてすっきり。井戸もあったし。「プロミシング・ヤング・ウーマン」でも書いたけど、思わぬ人が思わぬ味方(?)だったり感情を共有できる人だったりすることって、生きていると時折あって、それが自分が思っている以上にグッとくるんだけど、(そして実際は人生にそんなに影響なかったりもする)、今回は情の薄いジョンスのお母さんがそれ。井戸のことを唯一覚えていた。もしかしたらいい加減な記憶あるいは発言かもしれないけど、それでもこの時はジョンスの求めていた答えだったわけで、それがジョンスのことをちっとも愛していない(ように見える)お母さんから発せられたという。

30代以下でこの映画を見ていたら、みる前から「ケッ!」と一蹴していた気もするけど、若者のあれやこれやがとても崇高に思えるババアなので、先入観なく楽しめました。エロシーンは本当に不要だったなあ。男性はああいったシーンに共感するのか??わからん。

追記:友人とこの映画について話したら彼女の感想は、「最初から途中までジンヘミが人前で変な踊りをさせられている、っていう印象」とのことでなるほどなと思った・・・。(冒頭のショッピングセンター入り口でバイトとして踊っているジンヘミ、金持ちの前でアフリカの踊りを真似するジンヘミ、地元でトップレスになって謎の踊りをするジンヘミ・・・、彼女は人前でいつも踊らされている。)だからなんだ、って感じだけど。


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