ツワブキ

知らない、野菜を手に取って
でもそれは、知ってるものと
似ている
何にも似ていないものは
段々と私の世界から減ってきた
そのことを苦く
寂しく思っているだろうか
わからない

父の書棚から
こっそりでなくヘッセ詩集を抜き取り
誰にも言わない旅に連れていく
私の日常は肉感を失っている
繋がりへの希求は煩わしくなり
バランスを欠いているのは
世界ではなく私であるか

ゆるやかに死にゆく誰かを
見送る時間を引き伸ばしたような日々
どんなものもそばに置けば腐ってゆく
そんな僕の住処は墓場が相応しい
よく腐るよい墓場だろう

あなたと暮らせば憎んだだろう
この塊の捨て方がわからなかった
命諸共に海底に沈めれば
二度と蘇らないだろうか
それとも海を沸かすだろうか

誰もあなたの不幸を償わない
誰もあなたの苦しみに寄り添わない
誰もあなたの怒りを理解できない
それでも傷を癒すものが
まだ世界に残っているだろうか

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