錯覚

君が生きていることを
左手で確かめながら
過ぎてゆく時間
死へ向かってゆるやかに
強まる絆に縋りついた

離れてゆくのに
近づいてゆく
別れは僕たちを
分かちがたく結びつける

共にすごした日々も
出会う前の僕も
ひとりになった後のことも
すべて同じことだ
君の気配で満たされている

死を恐れ怯えながら
君と世界の片隅で生きてきた
世界中のどんな不幸も
君に振りかからぬように願った

愛に迷いがなくなったのは
身を裂かれる痛みを知ったから
せめて僕は全てを懸けたと
そう思い込みたかった

共に旅立てたらよかった
浅い呼吸に疲れ果てていた
本気で生きたとも言えないけれど
逝ってしまえば少なくとも
不幸の証明になるかしらと

君がいない日々が始まって
それは君がいた日々と
本当のところそれほど変わらない
君がいなくなる恐れが
君がいなくなった穴に嵌り込み
相も変わらず僕を圧迫する

ああこの身の内に溜まる
世界中の矛盾を解いて
愛の残り香の中で眠らせて
世界を美しいと錯覚しながら

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?