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居留地研究とは何か?

筆者は文学部史学科を卒業しただけであって、建築に関しては素人と言っていい。正確に言うならば某大学の通信教育部の建築デザインコースを1年で退学してしまった。(退学の理由は経済的な問題と時間がなかったことである。)だから建築を語る資格はないのであるが、それでもこのホームページを通じ、居留地と建築との接点を探りたいと考えていた。
そもそも私自身、「居留地」という言葉に興味を持ったきっかけは旅行した際に地形が似ていると感じたことである。地元神戸、若い頃好きで何度も訪れた長崎、横浜、そして函館。いずれも港町と呼ばれ、異国情緒を売りにした観光都市にもなっている。坂があり、教会があり、外国人も住み、外国人墓地があり、山手から見る夜景も美しい。それらの共通項を辿って調べた先にぶつかった言葉が「居留地」だった。
さて、ここでは建築的な面から3つの参考文献をあげたい。
「図説・近代日本住宅史」内田青蔵+大川三雄+藤谷陽悦=編著 鹿島出版会 2008年
 第1章の西洋館との出会いは「出島と外国人居留地」から始まっている。図書館などに置いてある可能性も高いのでぜひ手に取ってみていただきたい。ここでは簡単に内容を紹介する。
 開国以前の西洋文化は、キリスト教の布教を目指して訪れた外国人宣教師や長崎の出島を利用して通商を行ったオランダ人やポルトガル人によってもたらされた。この本には図版が多く掲載され、長崎の次には神戸や横浜の初期の居留地の地図と共にコロニアル・スタイルの建築の間取り図も紹介している。重要なことは、12ページに書かれているように、「居留地の設置以降、洋風の建物が外国人の商館や住まいとして相次いで建設された。しかしながら、居留地は限定された地域ゆえに、日本人がいつでも目にするというわけにはいかなかった、一方的、全国でキリスト教の布教活動を展開していた外国人宣教師や、地方公共団体で登用された語学教師・技師などの住まいは、日本人の街の中に建設された。」
「明治の異人館」坂本勝比古 朝日新聞社 昭和40年発行 古い本であるが、掲載されている西洋館の写真を眺めているとタイムスリップしたかのように思えてしまう。この本の素晴らしい点は、著者の専門の神戸のみならず、長崎、横浜、函館、大阪川口、東京築地、開港場新潟も扱っている点である。
「開港7都市の都市計画に関する研究」村田明久 早稲田大学博士論文 1995年
この論文は建築というよりは都市計画の観点から開港7都市について研究されており、概要や目次ならばインターネットで閲覧できる。論文の主題は、以下のようになっている。
1・開港7都市の建設過程の史的研究により、都市形成や近代都市計画導入の過程を明らかにして、地域空間形成についての特徴を比較分析すること。
2・開港7都市の形成過程における都市機能構成を分析して、都市計画の制度や手法について検討を行い、都市構成の原型と周辺地域への影響を把握すること。
3・開港都市の歴史的地域を生かした保存活用の手法と都市作りの手法を体系化すること。
この論文は私がホームページを作成し始めた2000年より以前に作成されているが、全文を確認できたのは実はつい最近のことになる。一般書とは違って論文なのでなかなか手に取る機会は少ないと思うが、全国的な居留地研究をしている方には必須だと思った。
そもそも居留地(雑居地含む)研究とは地方史の延長のような面もある。各居留地の研究に接点がないわけでもないし、共通項はたくさんある。
ここで「居留地研究会」というものをふりかえってみたい。