少年サッカー、そして怪我のこと vol.3

保護者間のデバイド

 私はこの、日本独特の人権を軽視する指導に対して「共感し声をあげる仲間を作ることの難しさ」を日々感じていました。

 たとえ違和感を感じていても、声をあげて行動に移そうとする人は本当に少ない。さらに、日本は子育て家庭へのサポートが貧弱なため、親は日々本当に忙しい。サッカーに限らず、習い事や塾に通わせ、PTAや学童からひっきりなしに要請される保護者タスクをこなすだけであっという間に小学校の6年間が終わってしまうでしょう。

 ですから保護者間でも様々な考え方があり、何を問題と思うかは本当にバラバラです。タイプに分けてみると、

タイプA:
 サッカーは子供の習い事のひとつ。これまでのやり方を変える必要性も感じない。兄弟姉妹もいてお当番や付き添いだけで手いっぱい。
  
タイプB:
 過去に自分がスポーツに打ち込んだ際に、指導者の体罰や暴言、厳しい練習を乗り越えたからこそ今の自分があると考えている。未成熟な子供が自分で乗り越えられない壁を超えるため、子どもには厳しく指導して欲しい派。

タイプC:  
 どんな親でも自分の子供が活躍する姿が見たい。また、指導者側と関係が近い保護者は、多少の暴言や育成者としてふさわしくない行動を見てもチームに波風をたてるような指摘はしない。

タイプD:
 指導のあり方、現状に違和感を感じている、もしくは問題意識を持っている。

 もちろん上記のタイプはどれかひとつということではなく、混ざり合い、状況によっても変化はするでしょう。

 チームの親御さんと話す中で、共感する人を集め、指導者に意見を伝えようと思っても問題意識はバラバラです。指導者に向かって声をあげたときに子供にふりかかるリスク(試合に使ってもらえないなど)を避けたいと考える人、色々気にはなるけど、どうせ何を言っても変わらないと諦めている人、様々です。

 しかし、そのあいだにも子供たちは日々傷つけられている。指導者から投げつけられる暴言や否定によって自信を失い、自分を肯定する力を毀損され続けている(怒られたり否定されるのが嫌で辞めていった子が何人も出ている)。

 ただ、子どもの性格は千差万別なので、罵詈雑言をスルーしてまったく気にせず我が道をゆく子だってもちろんいます。


 今年2月に応援にいった試合でも、息子のチームのコーチは試合中ずっと怒鳴り続けていました。

 息子は3年生の中から選ばれて4年生の試合に出ていましたが、「あんなに怒るなら最初から4年の試合になんて呼ばないで欲しい」「試合中に大声で怒鳴られると足止まるし、指示が多すぎて何していいかわからなくなる。やる気がなくなる」と言い、最後にはうつむいて涙をぬぐっていました。

 このままでは、彼は育成時代にサッカーが嫌いになってしまうのではないか。子供のスポーツに親が口出しすべきなのか(しない方が良いに決まってますが)、それとも、これは彼の人生のたった1ページであって、じっと時が過ぎるのを待てばいいのか。

 スポーツや教育における科学的、哲学的なアップデートを取り入れて現場で実行している指導者は確実に増えていると思いますが、義務教育レベルや地域のスポーツ団体ではまだまだ少ない印象です。

クラブチームへの移籍

 話しは少し前(2019年)に戻ります。

 親としてはチームの指導方法に対してモヤモヤとした気持ちを抱えていましたが、毎日練習に励み、ゴールを決めては満面の笑顔を見せる息子のために、出来る範囲でサポ活を続けていました。

 しかし、2年生の後半になると私の仕事が忙しくなり、さらに乳児を抱える妻の体調不良も重なり、チームのお当番を毎回断らねばならず、週末の試合のたびに心苦しい思いをしていました。

 そこで妻と一緒に息子に家の事情を伝え、できればお当番の無いクラブチームに移籍してくれないかと相談したところ、立て続けに友達が他チームへ移籍したタイミングもあり、「もっと強いチームでやってみたい」と息子は快く同意してくれました。

 新しいチームは地域でも1、2の大きさで、1学年に30名以上のメンバーが集まっていました。8人制サッカーに同学年のメンバーを揃えるだけでギリギリのサッカー少年団との違いは明らかで、当番も手伝いもなく、試合のときは現地集合解散と親の負担は激減しました。

 夏合宿を終える頃にはチームにも慣れ、息子はひとつ上の学年の練習にも呼ばれるようになり、レギュラーチームにも選ばれ嬉々としていた矢先、LINEの連絡グループで息子が一番仲が良かったお友達が退部したという知らせを受けました。それを息子に伝えたところ、突然泣き出してしまいました。

 よく話を聞いてみると、チーム内では特定の子どもらによるいじめや嫌がらせが日常的にあったそうで、息子は自分の親友に対するいじめを止めようと、その相手にやめるように伝えていたことを説明してくれました。

いじめと頻発する頭痛

 退部した友達は5歳からずっと同チームでサッカーを続けていたそうですが、練習や試合中に特定の選手から言葉の嫌がらせを受け続けていました(試合の負けを自分のせいにされたり、ミスをすれば文句、悪口、陰口を言われる、練習中に嫌がらせを受ける)。それに対してコーチや監督が何もしないことにも嫌気がさして、最終的に退部に至ったとのこと。

 そして彼が退部したあと、今度は息子がターゲットになり、同じ2人から嫌がらせが始まったと言います。

 さて、父親としてどうすべきか。

 ちなみに、noteの最初の投稿は私が小中学校時代に受けたいじめのことでした。

「図書室、ありがとう」
https://note.com/seven_riders/n/neaab8c7af0eb

 私は非常に悩みました。なぜなら、この先長い彼の人生のなかで何度でもそのような機会があるでしょうし、対人トラブルは自分の頭で考えて解決して欲しいと思っていたからです。もちろん、本当に深刻な場合や、命にかかわる場合は別です。

 一方で、自分がいじめを受けていたとき、まわりの大人は一切助けてくれなかったことも事実です。さて、どうすべきか。

 まずは、できるだけ話を聞いてあげて、励ますようにつとめました。時間があれば自主練にも付き合いました。

 しかし秋を迎える頃になると、練習から帰ってくるたびにチーム内であったことを話をしながら泣き出したり、サッカーの時間になると体調不良をを訴えるようになりました。言われた悪口を思い出すだけでお腹が痛くなる、練習や試合の前に頭痛がすると言い出し、その頻度はどんどん上がっていきました。

 言葉の攻撃はサッカーのプレイ中だけに限りません。容姿や髪型について執拗にいじってくる。息子は自分の顔や、唇、ほくろ、目などを指し、俺の顔変じゃない?と頻繁に聞いてくるようになりました(人の容姿に口を出せるような相手ではなかったのですが)。

 でも大好きなサッカーは続けたいしチームは辞めたくない。

 ある日、床屋に行こうと家を出る前に「もし、次回の練習で髪型のことを彼らに色々と言われたら嫌だなぁ、でも切りたいけどどうしよう...」とまで言い出したので、私も気持ちを決めました。

 もし息子から聞かされている話がすべて「本当」だとしたら、大人が介入しなければいけないと思いました。しかし、親やコーチから見えない場所で行われている以上、息子の言い分もどこまでが真実かわかりません(当然、逆に息子が加害側である可能性も考えました)。

 私は親として彼に大好きなサッカーに集中できる環境を作ってあげたい。そんなことが理由でサッカーをやめてしまうのはもったいない。そんなときに、山崎総一郎著「子ども六法」という本に出会いました。

こども六法

 この本は、いじめという問題を道徳や倫理感ではなく、人権や法律という面から論じていることが他のさまざまないじめに関する書籍と異なる部分です。

 非常に実利的で明快、子供の権利と大人の義務をシンプルに表現しています。

 40年前にいじめを体験した当事者からしても、道徳や倫理教育ではいじめは決してなくらないという確信が常にありました。

 以下は以前の投稿に書いた、いじめに対する私の個人的な見解です。

 「よく「いじめられる方にも原因がある論」を出す人がいるが、僕は一切同意しない。いじめる方が100%悪い。とりわけ、多勢で1人をターゲットにするのは人間として最低で卑劣な行為だ。子どもであっても犯罪だ。

 パワハラ、セクハラなどのように完全に逆らえない上下関係の中や、匿名で受ける言葉の暴力も同じだ。

 人は言葉だけでも簡単に命を落とす。
 たとえ死ななくたって、身体も精神も簡単に壊れる。

 言っておくがこれは正義ではない。「人権」の問題だ。そして人権は、自分の臓器のように生まれたときからあなたに勝手に備わっているものではない。人権は『社会合意』だから、人間の存在よりも圧倒的に脆弱だ。

「人権」は社会がさんざん犯してきた過ちに対するひとつの解でもある。しかし人権は常に存在の危機に瀕している。だからこそ社会は(大人は)、メディアは相応のコストをかけてこの合意をメンテナンスし続けなければならない。」

 この本には、まず加害者側へコンタクトする前に、出来るだけ証拠や記録を残すことが大切だということが書かれていました。私も同じように考えていました。子供たちしかいない空間では、実はこちらも同じように暴力をふるったり、攻撃的な言葉で応酬し加害している可能性は否定できません。そのためには明白な証拠が必要です。

 どんな親でも自分の子を守りたい。ましてやいじめの加害側であると非難されたら、私だって事実関係をきちんと理解しようと聞き取りをするはずです。


続く。





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