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【エッセイ】The1975を心から愛してる、って言いたいんだけどな。

 「The1975を心から愛してる」

 そんなたった一言すらも言えなくなってしまった。The1975のボーカリスト、マティ・ヒーリー(Matty Healy)は僕らに唾を吐いた。

 彼のスタンスからして、いつかこんなことが起こると思っていたが、来日公演を控えたこのタイミングで来るなんて思ってもみなかった。


 マティは、日本時間で2月10日(9日かもしれない)にPodcastの「The Adam Friedland Show」という、アダム・フリードランドというコメディアンの番組に出演した。そこで彼はマイノリティ・グループ、女性の生理、そしてアジア人、特に日本人に対して侮蔑的表現、ないしはそれへの同意と見られる嘲笑をした。許せない。


 はっきりしておくが、あらゆる差別はあらゆる社会で許容されるべきでない。ただ残念なことに、宗教や政治、慣習がそれを阻害している。それと戦うためのThe1975の音楽、政治スタンスだったのに。

 彼は作品内でも差別に関する言及を今まで多数行ってきた。間違いなく世界で最も過小評価されている曲の一つである、彼らの代表作「Love It If We Made It」の歌い出しのすぐ後では、

Selling melanin and then suffocate the black men
Start with misdemeanours and we'll make a business out of them

メラニンを売って、黒人を窒息死させよう
まずは軽犯罪から始めて、その後はあいつら抜きでビジネスしよう

The 1975- Love It If We Made It

 口にするのも恐ろしいこの歌詞は、当然そのままの意味で解釈されるべきでない。こういったことが実際に行われている社会を痛烈に批判していることは火を見るより明らかだ。

 彼らの作品の多くは、こういった一見、「取扱い注意」なリリックを、極めて綿密に考え抜かれた構成と絡め合わせ、現代社会を批判するやり方をしている。そこが好きだった。新しかった。衝撃だった。


 そんな並外れた表現力を持った人自身が、「あっち側」になってどうするんだ…本当に悲しい。僕らファンや、彼を今まで支えてきた人たちはもちろん、自分自身の作品への冒涜だと思う。そう思わない人もいるだろうけど。

 今まで彼のインスタグラムのストーリーではブラックすぎるジョークが横行しすぎていて、さすがにちょっと心配だったが、最近またヘロインをやり始めたなんて噂が聞こえてきて、よりまた心配に。

 特に去年(2022年)の「9/11」の日に彼が投稿したストーリーは本当に笑えなかった。本当に酷かった。その時すぐに違和感を発信できなかった自分が恥ずかしいと思えるぐらい。

 エリザベス女王の崩御と、9/11という、ジョークにするのがあまりにはばかられる出来事を彼はやってしまった。

 別にスレスレのブラックジョークを見たいわけじゃない。社会的に圧迫されている人々や、クソジジイ&ババア共の権威主義が蔓延する社会で、もがきながら生きる若者たちの味方のままでいてほしいだけだ。


 皮肉と嘲笑の瀬戸際が、彼らの音楽性、メッセージ性を素晴らしいものにしていたのは言うまでもない、そして揺るがない事実だ。それが行き過ぎた結果がこれなのかもしれない。もう考えたくもない。クソだ。

 Twitterでは「彼は今、薬物中毒で発言に責任能力が欠けている」っていう意見も見たけど、だったら病院にでもしばらく入ったほうがいい

 僕のヒーローを、僕は今もう愛せない。

 頼む、また愛したいんだよ…


小金持ちの皆さん!恵んで恵んで!