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破壊の気持ち良さを考える 【 破壊王 KING of CRUSHER 】(PS1)

抑圧された破壊衝動を解き放て!

ストーリー
サラリーマン「司馬九造(しばくぞう)」が居間で家族と新聞を読みながら朝食をとっていた束の間、謎の虫によって抑圧されてきた破壊衝動を呼び覚まされしまう。テレビから机、ベッドなどの家具を破壊し、主人公は外へ飛び出し次々と破壊の限りを尽くすのであった…。

やはり破壊。ものを壊すゲームは楽しい。007ゴールデンアイでも、敵キャラを倒す以上にドッカンドッカンと木箱からコンピューターまで壊すのがなんだかんだ楽しかった。まさにゲームだからこそ出来る気持ちの良いストレス解消法だ。
そして本作はまさに「破壊」に焦点を当てたゲーム。子供の頃ならこのパッケージのキャッチコピーコピー「サラリーマン、壊しまくり。」にも惹かれて買ってに違いない。そしてパッケージの裏には「究極の『ストレス発散ゲーム』」という売り文句が堂々と出ている。

目の前にあるもの全てを破壊しろ!

そんな本作はモノを殴って蹴ってぶっ壊すことだけに焦点を当てたシンプルすぎるアクションゲーム。とにかくたくさん壊す事だけが目的だ。
ストーリーの展開も主人公が家のモノを破壊し回った後、職場のオフィスも破壊すると突然モンスターを化して住宅街の家々を破壊し、静止するパトカーも破壊し、だんだん壊す対象のスケールが大きくなり物語はさながら怪獣映画の様相と化していくのが本作の流れである。

ゲームの「気持ち良さ」を考える

そしていざ本作をプレイすると操作した瞬間にわかる、自キャラの操作性の悪さ。そして殴ってわかる、気持ちよくなさ。そして遊んでわかる、難しさ。
そう、本作はいくら遊んでも気持ちよくはならない、モヤモヤが積もりまくるストレス発生ゲームだったのだ…。そしてゲームにおいて気持ちよさが発生する要因について深く考えてしまうのであった。

気持ちよさとは「操作性」

本作の操作性はすこぶる悪い。なんともいえないモッサリとした動き、微妙に遅い移動速度。アクションゲームにおいて大事なキビキビとした気持ち良い操作は一切本作には存在しない。
さらに移動に追従するカメラは自由に見回すことも振り返ることも出来ず、背後がまったくわからない。ステージのほとんどが奥へ向かうだけのゲームだが、破壊するものを探す事もあるのでこれは辛い。というか酷い。

気持ちよさとは「音」

さらに肝である「破壊」は殴っても気持ちよくなれない。どれを殴っても「モ゛ッモ゛ッ」と微妙な音しか出ないのでとにかく地味。やはりモノを殴った時の音が大事だ。
同じ破壊をモチーフにしたゲーム「ブラストドーザー(N64)」が何故気持ち良いのかというと、破壊するたびにバギョーン!ドガーン!とド派手な音と爆発が起きるおかげだ。それが本作には全くないんだ。

そしてBGMはミュージシャン土屋公平による90年代らしいファンクサウンドなのだが、暴力的な状況とは裏腹に軽い音楽が本作の狙い通りシュール感を誘ってはいるが、ゲーム的には単調で盛り上がりに欠けるBGMなのが勿体無い。

気持ちよさとは「難易度」

そして本作は一定のモノを破壊してゴールに着いたらステージクリアなのだが、プレイヤーの体力は徐々に減っていくので、回復するためにモノを次々と破壊しなければならないのだが、このマネジメントがかなりシビアで。マップ構成や敵の配置を覚えて効率よく攻略していく必要がある、更に難易度は後半は油断しているとすぐに戦車や戦闘ヘリに袋叩きにされてしまうのでイージーでも結構難しい。

せっかくモンスターと化したのに効率を考えて破壊活動をするのはなんか違う気がするぞ!ちなみに序盤でプレイヤーを攻撃してくる生身の警察官はさすがに倒すのはマズイと思ったのか、いくら攻撃しても倒せない。モンスターになっても倒せない。うーん。

ハカイ…コウリツ…ダイジ…

さらに目標破壊数のためにプレイヤーは次々と派手に壊して回れるのかと思ったら緩衝材のぷちぷちを一つずつ潰すかの如く、丁寧に一つ一つ壊していく必要がある。まとめて回し蹴りで壊せそうで壊せないのがまたモヤモヤするぞ。
同じ街をめちゃくちゃにするゲーム「塊魂(PS2)」が何故気持ち良いかというと、自キャラを雑に転がすだけで次々とモノを巻き込んでいける気持ちよさがありましたね。それが本作には全くないんだ。

そんなこんなで本作には様々な負の要因がパイの実の如く幾層にも重なりまくって、気持ち良さがほぼないゲームになってる。そりゃもう壊滅的なくらい。しかし普段我々がゲームのどのような部分に気持ちよさを感じているかを逆説的に教えてくれるゲームでもあるのだ…。

怪獣になれる快感

そんな本作、ステージが進むとプレイヤーの形態はサラリーマンからモンスターへ、そして巨大な怪獣へと変化していく。そして破壊するスケールも大きくなりパトカー、住宅、ダム、東京タワー、国会議事堂を破壊したりと、冷静に考えたらかなり人死が出る事間違いない場所をやりたい放題に破壊しまくれる。まさに往年の怪獣映画の主役になって壊しまくれるところは個人的にかなり好きだ。
まぁパッケージでサラリーマンを推す割には2ステージしか人間の姿で破壊するステージがないのはどうかと思うけどね。

国会議事堂をぶっ壊せ!

更に最終盤のステージあたりではついにドラゴンのように翼が生え、飛びながら口から吐き出す炎で戦闘機を破壊し、翼の風圧で高層ビルを薙ぎ倒す展開になる。ここまでくると難易度はかなり下がり、ビルも簡単に倒れるので実は結構気持ち良い。ビジュアルもなかなか良く破壊しがいがあるぞ。さらに攻撃してくるミサイルも何故か虹色の煙を放ちながら飛んでくるのでなかなかサイケでトリップ感がある。

そしてラストはなんとアメリカに向かう展開に、まるでモスラだ!目的は自由の女神を破壊…ではなく対決をする超展開。ここに怪獣vs自由の女神という凄まじいカードが生まれたのだ。ちなみにこの時には気持ちよくないとかつまらないとかどうでもよくなってきてました。僕の想像を遥かに超える展開だったので最高です。ええ最高です。

さぁ戦いだ!

90年代らしい暗いシュールさ

常にプレイヤーに「破壊しろ…」と語りかける悪魔、そして主人公の抑圧されてきた破壊衝動と本作のどこか明るくも陰鬱な90年代の雰囲気が詰まっている。この当時のサブカル感が強い黒いノリは結構好きだぞ。
やたらと能天気な曲の中、ひたすら皿を地面に叩きつけまくる実写のエンディングもらしいといえばらしい。

主人公に破壊を促す虫っぽい何か
スタッフロールでは次々とお皿が割られていく
どんどん凄い事に

ハードの進化により表現の幅は広がる、そしてプレイステーションの登場によりテレビゲームに参入する裾野も広がり、普通のゲーム会社にはない自由な発想と多様な表現のゲームが生まれるようにもなった。本作「破壊王 KING of CRUSHER」もそんな中で生まれた一本だろう。

本作は面白いかと言われたら全然面白くもないし、ストレスは一つも解消されないし、面白半分で勧めることも出来ないけれど、90年代の退廃的な空気感を多少なりとも味わえるのは本作の良いところかもしれない…たぶん!きっと!恐らく!


DATA

破壊王 KING of CRUSHER
発売 / 開発:ファブ・コミュニケーションズ
対応ハード:PS1
発売日:1998年11月12日
ジャンル:パズル



映画鑑賞と積みゲーの資金となります…たぶん