『手紙魔まみ、夏の引越し(ウサギ連れ)』雲の向こうからいつも月は見ている。塩谷風月の語るまでもない事柄。1
この世のすべてが愛しいなんて
『手紙魔まみ、夏の引越し(ウサギ連れ)』
穂村弘
『手紙魔まみ、夏の引越し(ウサギ連れ)』穂村弘(以下、『手紙魔まみ』)を最初に読んだのは、二〇〇一年のことだったと思う。当時、僕は短歌を始めてまだ二年足らずの初心者で、何も知らないくせに何でもわかっているような、根拠のない自信だけを抱えて短歌と向き合っていた。それでも、長く自由律詩の方ばかり向いていた目を閉じ、定型詩としての短歌を選んだことには、それなりの決意があった。
そう気負っていた僕にと