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2024年1-2月に読んだ本

歌わないキビタキ / 梨木 香歩

これまでの梨木さんの、どの本よりも強く病や死に向き合い、それが転じて生についても考えている。山荘に訪れる小鳥や動物たちの習性を見つめ山庭の植物の生存戦略に思いを馳せつつ、よく生きるとは一体どういうことなのだろうかと思案している。ナチュラリストとしての丁寧な自然描写の中に心情がさらりと綴られていくが、水面下で抱える「よく生きるとはどういうことか」という大きな問いとつながる瞬間が度々ありドキリする箇所が何度もある。

本心 / 平野 啓一郎

2040年の日本が小説の舞台。「ほの明るく、ほの暗い」という小説の世界が、やがてくる未来の照度として、やたらリアリティのある作品だった。薄ぼんやりとした靄みたいなものに最初から最後まで覆われていて、喚起だけはずっとされているが窓が1つもない部屋にいるような息苦しさだった。小説はあくまで軽く仕上げられているが、何かずっしりと重いものが読後に残った。

直感と論理をつなぐ思考法 / 佐宗 邦威

本書冒頭に登場する「カイゼン思考/戦略思考/デザイン思考/ビジョン思考」の4つの思考をめぐる架空の世界のスケッチと説明があまりに見事で序章を何度も読み返した。デザイン思考へ至ったビジネストレンドの変遷、そしてその行き詰まりを迎えるまでの、面白くかつ端的な説明が素晴らしかった。

気がする朝 / 伊藤 紺

詩集に収められた詩は、かわいく、さみしく、こわく、やさしく、いとおしく、だけどそのどれでもない。詩というのは、そうした言葉になる以前の感情を言葉で描けるんだなと思った。色々な味のラムネの詰め合わせのように、色々な感情がスッと身体に入っては溶けていった。想定も美しい。

ハンチバッグ / 市川 沙央

ボクサーズハイとでも言うのか、めちゃくちゃテンポ良く巧みなステップで繰り出してくるパンチラインに、読んでいる自分の盲点と急所を打たれ続けて、もう快感の域に達する読書体験だった。一気に読み終えた。

理念経営2.0 / 佐宗 邦威

思い切った自己開示から始まる導入も、パーパス経営の必要性が強くなってきた社会背景の整理もわかりやすく、読んでいると共感と思考整理が順番にやってきて気持ちいい。また何よりも後半で「実践ワーク」として紹介されている内容が、これまで試行錯誤しながらブラッシュアップしていったであろうことが伝わるような「使えるワーク」ばかりで勉強になる。

家具の本 / 内田 繁

「水平感覚」「両義的なものを抱える」「ウツなる容れもの」そうした日本的美意識を、村田珠光や小堀遠州の茶室・庭造りを引き合いに出しながら語られている。自分のDNAに眠る何かに目覚めの感覚を感じられる嬉しい本。

ドーナツ経済学が世界を救う / ケイト・ラワース

経済学と名の付く本を初めて読んだが、めちゃくちゃ面白くて1日で読み終えた。著者によると「誰もが日々の生活を営むうえでも、ものを考えるうえでも、経済学の影響は免れない。なぜなら経済は経済学で設計されており、私たちは知らないうちに経済学の発想や言葉で考えているからだ」と言う。そして「現在の主流となっている経済学は50年以上前に書かれた教科書(しかも、そこで拠り所にされている学説は200年前のもの)にしたがっているため、21世紀が直面している問題は解決できない」と。産業革命以降、現在まで続いてきたというだけで、まるで常識のようになっている考え方をアップデートし、力強く未来を照らそうとする素晴らしい本だった。

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