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11 頬を濡らす雨のように

振られたらきっと死んでしまう…そうだ、私からサヨナラしよう…


ゴールデンレトリバー風だったその人は、『女落としゲーム』を楽しんでいた人、巷でいうところの『最低の男』だった。目的はわからないが、身体の関係をもつわけでもなく、ただ落として満足しているだけの人。お金を巻き上げるわけでもないし、ご飯はご馳走してくれる。本当に目的が謎である。

おそらく、承認欲求の類のもので、結婚詐欺師になればそこそこの成果を上げることができると確信している。


うわっ、私の見る目、なさすぎ…!?
と自分の恋心を死ぬほど疑ったが、どんなに最低でも好きなものは好きだった。惚れた弱みである。10年ぶりの恋の相手がまさかこんな男だとは…!


会った次の日から、起きてから寝るまで続いていたLINEは、1日1度になっていた。既読もつくかどうか。放置されるとますますその人のことを考えてしまう。
頭の中の天使の私が、『この人追いかけても何も実らないからね!?やめときなさい』と必死で止めているけど、心の中の悪魔の私は『まだ告白してないし、いくら詐欺師みたいだからって、言ってくれた言葉がどこまで本心かわからないじゃない!』と囁いてくる。

悪魔の囁きは見事なまでに甘美で、現実を見せてくれない。頭ではわかっているが心が許してくれない。『大切なものを盗んでいきました、あなたの心です』が、そのまま適応される現実とかどこの世界線ですか??と問いたくなる。


私って、まだこんなに人を好きになれたんだ…


LINEの返事が来ないときの苦しさも、過去のLINEを何度も見返してしまう甘酸っぱさも、全部ひっくるめて恋なんだと。10年間感じることの出来なかった恋の味覚を噛みしめて、うまくいかない辛さに泣いているのも、心の痛さも全部全部恋なんだと、改めて知った。

人間嫌い、人間に興味のないしがないが、興味を持てた。
これは進歩ではないか。でも、10年間のリハビリにしては刺激が強すぎる…。荒療治も荒療治で心がボロボロ。錆びついた心を動かしすぎて悲鳴を上げていた。


振られたら死んでしまう…


そうだ、どうせしんどくてフェードアウトされるぐらいなら、こっちからブロックすればいい。でも、気持ちは伝えよう。。。

そう思って、想いを綴った文章は5,000文字を越えた。
どうせ既読がつくかもわからない。それなら、気持ちを吐き出してスッキリしてやる。たった1か月、メッセージでやりとりしただけでこんなに文章が書けるなんてどんだけ好きだったんだよって泣きながら苦笑しながら書き連ねる。最低限、誤字脱字に気を付けて、でも万が一、既読がついたときに、何かその人の心に残せるように。あわよくば、『僕も実は好きだったかもしれない』と思ってもらえるように…

乱暴に、でも丁寧に。
気持ち悪くてもいい。10年ぶりの恋愛だ。構うものか。こっちはリハビリ中だ。読まれなくてもいい。視覚的に『好きの重さ』『真剣さ』が伝わればそれでいい。本当にあなたのことが好きでした。…今でも好きです…

これ以上好きになってたまるものか!と勢いで送信した。
胸には少しの後悔と達成感。さよならという気持ちと、会う前の関係に戻りたいという気持ちが入り交じり、何度も泣いた。

文面に『ブロックします』って書いたが、既読を見届けてからブロックしよう。返事を受け取るだけの心は持ち合わせていない・・・。こっちはすでにボロボロだ…。


1日たっても既読がつかなかった。


あーあ、先に向こうにブロックされちゃったか…。1手先越されて負けること、よくあるんだよね…。

と思うと、どうでもよくなって、その人のLINEに『何先にブロックしてんのよ』『読んでくれたっていいじゃない』『ブロックさけるようなことした?!』とやや半ギレで送った。

どうせこのあと連絡先を削除するんだし、ブロックされているなら届かない。かっこ悪くたって恨み節を書いても誰にも届かない。なら別にいいじゃないか。


送り終えてスッキリしたとき、一斉に既読がつく悪夢を、あなたはみたことがあるだろうか…!


「仕事忙しくてLINE見れなかった。で?何?僕のことが好きなんだろ?」


その人から返ってきた言葉に、顔面から火が噴き出しそうなり、夜道でもわかるぐらい真っ赤になった。なんだこの世界線は。

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