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「日本王権神話と中国南方神話」諏訪春雄

日本民族の起源の一つが中国南方にあることは、遺伝学的にも指摘されていることですが、本書ではその地方の神話と日本神話との関わりについて、先行研究を中心に検証しています。

参照している資料は比較神話学の直接的な研究から神話、伝承、生活習慣の一次採録まで膨大な量があり、この分野のインデックスとしての役割も果たしてくれる、手元に置いておきたい一冊です。

表紙写真にもある、トン族という少数民族の神話と祭祀に特に詳しく、鏡や傘といった「丸いもの」を太陽に見立てて祀る様に、我々の祖先と深く関わりがあることを感じさせられます。先日、水谷慶一氏の「知られざる古代」による「測量技術による王権授与説」を紹介しましたが、本書を見る限りでは太陽祭祀はこれらの地域から我々の祖先が海を渡って来た際に持ち込まれたものであるように思われます。ですが、どちらかが一面的に正しいと断定できるものでもなく、後付け的には水谷氏の言うような側面も影響したのかも知れないと思っています。

同様のことは、蒲池明弘氏の「火山で読み解く古事記の謎」にも言えます。蒲池氏は、天岩戸の記述を大規模な火山噴火の降灰による太陽光の遮蔽と不作、になぞらえています。本書は中国南方の射日神話、招日神話を採り上げています。遺伝学的に中国南方から我々の祖先が来ているのだとすれば、神話もその地域から持ち込まれたと考えるのが妥当でありましょう。ただし水谷氏の説と同様、それを否定するものでもありません。大規模噴火自体も事実ですので、後世、人々の記憶に残ることで日本独自のアレンジが加えられたものと考えられます。

本書は、対象を中国南方と、少しだけインドネシア、という限定された地域に絞っているために、詳細でありながら大変わかりやすく、とても濃い内容を楽しめます。また、地域を絞っていることから、他の地域の太陽神話はどうなっているのでろう、と、更なる好奇心をも与えてくれる、大変魅力的な書でもあります。


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