感想:白の闇

ポルトガル人ノーベル賞作家 ジョゼ•サラマーゴ作の「白の闇」を読了しました。

あらすじ

本作は「感染する失明」が蔓延した世界の中で、唯一失明を免れた主人公とその一団が力を合わせてサバイブしていく過程を描いたパニックホラー作品です。

感想

第一に、比喩表現マシマシの文体はかなりくどいです。特に作品の後半、主人公達が隔離病棟から解放されて以降の描写は正直読み進めるのが苦痛な程でした。
この点について、この作品特有の問題というよりも、日本的な文学•文章表現に慣れている私にとっては「ポルトガル語に固有の比喩•言い回しを多用した表現」が読みにくさの原因になっているというのが正しいかもしれません。(正直、多くの読者が「比喩に次ぐ比喩」を冗長に感じたと思います。)
また、登場人物達の人間模様も度々描かれるのですが、そこでも比喩表現がノイズになってあまり没入出来なかったというのが正直な感想です…

一方で、本作において特筆すべき点は、巧みな情景描写でしょう。
作品前半では失明者が詰め込まれた隔離施設、後半はやがて国民全員が失明し、あらゆる社会活動が停止した世界が物語の舞台となっています。
失明者の世界ではインフラや公衆衛生の概念が消滅しているため、汚物や死体があちこちに散らばっています。この不衛生極まるディストピアを視覚•嗅覚に訴えるリアルなイメージとして読者の脳内に立ち上げた描写力•表現力が本作の見どころであり、この巧みな情景描写にがパニックホラー作品としての面白みを裏打ちしています。

また、「世界の全員が失明する」という壮大なifに対して、露わになる人間の残虐性•暴力性と対峙する中で芽生える友情や団結も見どころです。

以上を総合した上で、本作は社会的にメッセージ性の強い文学作品というよりもむしろパニックホラー作品として楽しめる一冊だと思いました。

この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?