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古典の中には眼がある

シチリア島のパレルモに、マッシモ劇場という劇場がある。

僕の心に、その劇場での不思議な出来事は確かに刻まれている。一度しか行ったことはないし、それもずいぶん昔だ。大学三年生か、その辺りだったと思う。

アルバイトをしてお金を貯めて、南イタリア・シチリアの旅に一人でふらりと出かけた。

目当ては、イタリアの作家ピランデッロが産まれたアグリジェントに行くこと。
それと、ポンペイの遺跡に行くこと。

その頃の僕は、田村隆一の詩のワンフレーズ「石の中に眼がある」という一節に触発され、アグリジェントにあるギリシャ神殿や、ヴェスヴィオ山が大噴火して、大量の火山灰と軽石に埋もれた街ポンペイに、直感的に強い「何か」を感じていた。

二週間のイタリア一人旅。バックパックをぶら下げての学生の安旅行。

その旅の道中、パレルモに立ち寄り、マッシモ劇場で『コッペリア』を観た。

パルコ席の後ろの方から、燃えるようなライトに照らされた劇場を見下ろしていた。

その時、僕は、劇場の観客たちが脱皮していくイメージを強く感じた。

脱皮を繰り返し続ける、アゲハチョウ。僕の脳内イメージの中の観客たちは、幾重にも重なった現実のベールをどんどんと脱ぎ捨て、生まれたままの姿で、劇場を飛び回り、『コッペリア』の音楽に合わせて踊り続けていたのだ。

その時の演出は、とてもスタンダードだったように思う。しかし、僕の脳内の空想の観客たちは、『コッペリア』の音楽に合わせて、確かに飛び回っていた。

その時から、劇場の虜になった。

正確に言えば、演劇創作で生きようと、決意した。

日本に帰るまでに、一本の戯曲のイメージをモルスキンの手帳に書き連ねた。
その言葉たちを、一つの作品として発表したのはカクシンハンの旗揚げの時だ。

TOKYOの大交差点は、コロッセオで、マッシモ劇場だった。
青年の魂の流動は、さながらアゲハチョウのように透明に羽ばたいた。
いや、羽ばたくようにと強く願いながら、無我夢中で書いた。

勢いで書いた、僕の詩のうごめきは、戯曲になった。

その戯曲は初演から六年経った今、イギリス人の優れたシェイクスピア・演劇研究者の手によって翻訳されて、イギリスで出版されることになった。

日本のシェイクスピアの現代的翻案戯曲として、The Arden Shakespeareから出版される本に収録されることになった。

今、英語に翻訳されていくプロセスを横目に見ながら、あの時の残像が襲いかかってくるのを感じる。

「石の中に眼を」

古典の中には眼がある。その眼を、僕は見逃したくない。


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