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TRPGとマーダーミステリー

よく似た双子のような2つのゲーム

皆さんは、TRPGという遊びを知っていますか?

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%86%E3%83%BC%E3%83%96%E3%83%AB%E3%83%88%E3%83%BC%E3%82%AFRPG

参加者同士の会話と、作品ごとに決まっているルールに従って、物語の当事者として振る舞うことを楽しむゲームです。

じゃあ、皆さんは、マーダーミステリーという遊びを知っていますか?

https://rabbithole.jp/

参加者同士の会話と、作品ごとに決まっているルールに従って、物語の当事者として振る舞うことを楽しむゲームです。

うん。あれれ?
TRPGとマーダーミステリーって、よく似ていますね。

①参加者同士の会話によって進行する。
②ルールに従って裁定される。
③物語の当事者となる。


どれも同じです。
でも、同じ遊びなら、わざわざ別の名称が付くわけがありません。
2つにはちゃんと違いがあるのです。
そして、違いをピックアップすることは、それぞれの遊びをより良く理解する助けとなってくれるのでしょう。

本記事では、2つの遊びを見比べながら、2つの遊びの魅力を見直してまいりましょう。

会話

2つの遊びは、それぞれ会話によって構成させます。
TRPGのTは、テーブルトークつまり卓上での会話を意味します。
マーダーミステリーだって、会話でもって物語を紡ぐわけです。
いっしょです。……と言ってしまうと話が終わってしまうので、ちょっと分解してみましょう。

TRPGでは、プレイヤーは全員に聞こえるように会話します。
基本的には、ナイショ話というのはしません。
もし、とあるキャラクターには聞かせたくない話があってとしても、プレイヤー同士ではちゃんと情報を共有します。

例えば、
Aさん「う~ん。この事実を伝えたら、きっとBさんのキャラクターbはショックだろうなぁ。どうしよう? aからbに話してもいい?」
Bさん「あ~、うちの子bにはショックかも。そしたら、臭わせる会話をして、bは不穏な空気を感じ取るのだった。って感じにしたいな」
Aさん「おっけー! じゃあ、そんな感じで!」

プレイヤー同士は情報共有しても、キャラクターは知らない。
こんな乖離を当然のように受け入れます。
これは、TRPGという遊びが、俯瞰的であり協力型の遊びだからです。

マーダーミステリーではこうはいきません。
プレイヤーが知ったことは、必ずキャラクターが知ったこととなります。
情報理解において、乖離を受容しません。
そして、情報をどこまで誰に伝えるのかが、戦略的であり心情的な行為となります。
情報伝達の程度をコントロールすること自体が楽しみの一部なのです。
これは、マーダーミステリーという遊びが、没入的であり対立型の遊びだからです。

もちろん例外はありますが、大まかに分類するとこのように言えますね。

ルール

では、こうした俯瞰的かつ協力型のTRPGと、没入的かつ対立型のマーダーミステリーでは、ルールにどのような傾向、違いがあるのでしょうか?

そもそもTRPGの大元となったゲームは、戦略シミュレーションゲームです。
海上の戦艦、地上の戦車隊などを配置して勝敗を決するゲームから派生したと言われています。
お互いの状況を共有して、情報が完全に公開されて、そのうえで判断を下すというベースが既に存在します。
俯瞰的なゲーム性というのは、この時から引き継がれてきたものと言えそうですね。

マーダーミステリーのゲーム性に近いのは『ハグル』や『人狼』が当てはまります。
いわゆる正体隠匿系ゲームと言われるゲームの多くは、自分の役割を公表しないキャラクターがいます。
自身の目的が、大多数の参加者の目的と相反するキャラクターがいるのです。
人に言えない秘密がある。
つまり、情報秘匿があるわけです。
自分だけが知っていて、他の人が知らない情報がある。
これがキャラクターだけでなく、プレイヤーにも適用されます。
先のTRPGにあったような、キャラクター同士は知らないけれどプレイヤー同士は知っているといった情報のやり取りは成り立ちません。

TRPGとマーダーミステリーでは、情報共有・情報秘匿に関してルールの面からも大きな違いがあるわけです。

他に強調しておく点として、TRPGでは結果を求める行為には判定が伴います。

例えば、
Aさん「むむ、この扉の向こうに宝物があるのはほぼ間違いないな」
Bさん「じゃあ、鍵開けしてみようよ」
Aさん「だね! では《鍵開け》の判定をします!」

といった具合です。
判定では、サイコロなどのランダマイザを用いて、成否を決めます。
つまり、望んで挑んだことなのに、成果を得られるかどうかは運否天賦なわけです。
TRPGでは一般的なアプローチなのですが、マダミスプレイヤーには違和感や忌避感を伴う処理ですね。
マーダーミステリーでGMから「あなたはその情報カードを引きたいのですね? では、わたしとジャンケンで勝ったら引いていいですよ」なんて言われたらイヤですよね。
では、なぜTRPGはランダマイザで処理し、マーダーミステリーではランダマイザを介在させないのでしょうか?

これは、処理によってプレイヤーに何を体験させたいか? というコンセプトが違うからです。
TRPGでは、何に挑戦するか? が重要です。
挑むという主体性を最大化させようというアプローチなのです。
だからこそ、挑む前に「この判断が正しいのか?」「ほんとうにやっていいのか?」という逡巡が必要なのです。
この躊躇いが、挑むという行為に緊張感を持たせてくれるのです。

マーダーミステリーでは、知ったことを元にどう推理するのか? が重要です。
知った後の推理こそが肝心であり、体験の主題は推理なのです。
だからこそ、知る前にストレスを与えてしまってはストレス過多です。
知るための処理にランダマイザまで挟み込んでは、煩雑なのです。
知った。だからこそ推理する。
そして、真贋定かでない情報を元に推理を巡らせること自体に、既に緊張感があるのです。

物語

物語の当事者になれる遊び。
この一点において、TRPGとマーダーミステリーはほぼ一致しています。

では違うのはどこでしょう?
TRPGという遊びは、俯瞰的であり協力型であり、
マーダーミステリーという遊びが、没入的であるという点です。

物語の体験感が違うのです。
TRPGでは、プレイヤーにも物語を創作する一面があります。
時にGMやシナリオ作者のようのような役割を持ち、物語の外枠からも創作します。
マーダーミステリーでは、プレイヤーは物語の中に自分自身を入れ込みます。
どこまでも一貫して作中の人物として振る舞うことが求められます。

実はTRPGにおいても、作中人物として終始振る舞うプレイヤーはいます。
こうしたスタイルは憑依型などと呼ばれ、煮えたロールプレイは遣り甲斐もも見ごたえもあります。
TRPGの遊び方のスタイルはいろいろとありまして。
憑依型、着脱型、人形師型、同居人型、一心同体型、などなど……。
俯瞰も没入も混ぜこぜも、いろんな遊び方を許容しているのが、TRPGの特徴といえるかもしれませんね。

なにせ、物語にプレイヤーはどのように干渉し、どのように振る舞うのか?
こうした部分を意識するのは、特に制作者において有用でしょう。

跋文

ま、徒然と申しましたが、どちらもよく似ていて、そして違ったところももちろんあるということです。
何を似てると思うのか? 何を違うと思うのか?
これは人によって様々に異なりましょう。
しゃみめにとっては、上記のような点を意識したという話です。

人ぞれぞれのTRPG論があって、マダミス論があるでしょう。
そして、この人それぞれの部分にこそ、その人が何を大切にしているのかが写し出されるわけです。
人格と人格が、時に真心を寄せ、時に偽りを織り交ぜる会話が好きです。
作品世界での振る舞いを規定する、抽象化と具象化のあわいに浮かぶルールが好きです。
会話とルールによって紡がれる、たったひとつの物語が大好きです。
この記事を読んでくださったあなたもきっと、物語が好きな御方なのでしょうね。
あなたの側に、いつも素敵な物語がありますよう、祈ります。




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