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コントと演劇、物語と驚き~KOC、そしてダウ90000

キングオブコントについて散々語ったつもりだったけど、まだ掘り下げきれていない部分があると思い書き始めている。あの大会において審査員が多く言及していた"ストーリー展開"と"裏切り”についてのことだ。

随分とストーリー仕立てのコントが増えたなぁと実感する大会だった。過剰にデフォルメしたやり取りやキャラクターで押し切る時代、無機質な反復が支配していた時代など様々あったが、間違いなく今はドラマチックなコントが台頭している時代だろう。笑えるだけでなく、何かを心に残していくストーリー展開を持つコント。2010年代まではそういった物語性を伴うネタは演劇みたい、お芝居みたい、といった具合にイジられていたものだが、いつの間にやらそんな揶揄は立ち消え、物語が一つの大会を埋め尽くしていた。

バナナマン、東京03、ラーメンズの影響が現役世代に及んでいるというのは間違いなくある。そしてYouTubeやラジオでその生き様をストーリーテーリングして発信していく環境整備も大きいだろう。活動そのものが物語を伴っていけば、ネタにもその熱量が乗っかり、作品と演者が交差して大きな笑いを生んでいく。空気階段、ザ・マミィ、少し変化球だが蛙亭もそこに繋がるし、M-1と同じモーションを盛り込んだマヂカルラブリーや、昨年のコントと同じ設定・アイテムを用いたニューヨークも曲解すればそういうストーリーを創り出そうとしたとも捉えられる。売れてしまい、芸人としての物語が順調になったことがこの2組の爆発をとどめてしまったのは何とも惜しいが。

もう1つ、これはどんな年でも評価されているが"裏切り"要素の幅広さだ。異質な他者を受け入れることがやたらと評価されているが、それも"裏切り"の一種なわけで、時代感と結びつけるのはさらさらおかしいだろう。徹底したドライの先に跳躍を見せたニッポンの社長や、同じ内容を反芻するという離れ業を繰り出したうるとらブギーズ、"驚き"そのものに振り切ったそいつどいつも、各々が創意工夫を凝らした裏切りなのだ。中でも突出していたのは男性ブランコ。構成力で言えば圧倒的な1位。物語と驚きが最高級の配合。

単独ライブが1本まるごとYouTubeにあったのでKOC後に観たのだが、コント自体のバリエーションが極めて多い。舞台装飾の使い方など、随所にラーメンズの影響を感じつつも、仕上がりは完全にテン年代のコント師。テンポも良いし、物語と驚きを兼ね備え、そして少々の突飛さを様々な方向からもたらしてくれる。今年の全決勝進出者の中でも際立って演劇的な方面から、キングオブコントの準優勝になるネタが仕上がったのは特筆すべきことだ。物語が笑いを生み出す時代、もはや演劇とコントの境界は融けつつある。



ダウ90000という8人組の劇団はコント界への浸透を始めている。様々なコントライブには10分未満のネタで参加しつつ、劇団としては本公演を2回開催済。コントと演劇、どちらの領域にも軽やかに行き来し、どちらの魅力も見事に掬い取っているいそうでいなかった劇団だ。配信で10/17まで観ることができる第二回本公演「旅館じゃないんだからさ」は驚異的な面白さだった。1つ1つのやり取りは実にコントらしい上質な会話劇が繰り広げられていくのだが、その人間関係の交差が演劇作品として大きな物語を描き出すのが凄い。


サブスク全盛時代におけるレンタルビデオ店という舞台設定も絶妙だし、映画やレンタルDVDを通して悲哀と憤怒と歓喜が呼び覚まされていく様は、胸に迫りながらも最高に面白い。第一回公演「フローリングならでは」(vimeoにて来年1月まで配信中)にも通じているが、記憶や思い出に対する滑稽なまでの執着が作品の芯になっており、その共感の喚起力やドラマのうねりは広い世代に刺さっていく普遍性もあるだろう。つまり求心力が非常に高い。コントシーンにも演劇界隈にも発信のプラットフォームを持つ強みもあり、今後ファンが増えていくことは間違いないだろう。現にこの2公演とYouTubeに載っているいくつかのコントを観てすっかり劇団ごとハマってしまった。

彼らの1時間半が、もしも5分で表現できたとするならば、、、それは流石に難しいにしても、とてつもなく上質な"物語"で笑いを生んでいく彼らは、現在のキングオブコント決勝に立つ姿は想像できる。いよいよ境界がなくなった今、どんな場所から素晴らしいお笑いがやってくるか全く読めないのだ。


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