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12/17_執筆制限時間10分小説_【374 杉藤 俊雄(すぎとう としお)は××したい】続く

 高校の僕は険しい顔のまま、大川くんと女の人たちのやりとりを眺めている。早瀬くんは僕を宥めて、園生くんがわざとらしく「大川君やるじゃん」と言い、五代くんは「確かに長い距離を歩かされたな」と冷静に分析しだして、物部くんに至ってはなにも考えてなさそうに見えて、本当になにも考えていないのがわかった。だけど、なにも言わないのが彼の美点だろう。口が災いの元だということが分かっているからだ。

 ややあって、僕たちの元に戻った大川くんが言う。

「ちょっと具合も悪いらしいから、彼女を医務室に連れていく。お昼に合流しようぜ」

 と。息をハキハキ、目がキラキラ、頬を高揚させている顔が少年みたいで可愛らしいのに、大川くんに助けられた女の方は、べったりと媚びを含んだ目で大川くんを見て、友人らしき女性は諦めたような笑みを浮かべる。

「…………」

 僕はわかっている。こんな状態の大川くんは、僕の言葉を受け付けない。だから、僕は余計なことを言わずにわらって快諾し、女の人を丁寧に支えて寄宿舎の玄関に入っていく大川くんを見守った。

 ふと、頬にぽつりと濡れた感覚があった。
 雨が降り始めたのだ。

 投稿時間:9分52秒

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