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8/28_執筆制限時間10分小説_【215 杉藤 俊雄(すぎとう としお)は××したい】続く

202×年6月 日本

 A県の県境に位置する長奈村は騒然としていた。
 特に閉鎖した療養所付近に住んでいた住民にとって、心が落ち着かないどころか、コロナ禍もあってつねに警戒状態だったと言ってもいい。

 付近の山から大量の人骨が見つかったことを皮切りに、山中崎の暗部が世間の明るみになった。

 カルト教団めいた杉藤家への信奉。
 古くから住む住民たちの軋轢。
 不可解な行方不明事件が続く歴史。

 特に地形は、円を描くように綺麗に山が配置されて、Y字に流れる川が、なにかを暗喩する記号に見えてくる。

「あぁ、ここが聖地ですか」
「とっしーたまが、まだサナギだった頃に住んでいたばしょたそ」

 長奈村は今、殺人鬼 杉藤 俊雄の聖地の一つとして、マナーの悪い野次馬たちの餌食になっていた。写真を撮り、周辺住民にむやみやたらと話しかけて、天使のように中性的な美貌に整形した――杉藤 俊雄の写真を加工してわざわざ作ったキャラグッツを身に着けて、頭の悪いお祭り騒ぎを繰り返す。

 解決が見えないコロナ禍の中で、住民たちが歓迎されない訪問者たちに物騒な感情を抱くのは当然の流れであり、自明の理。ストレスの矛先が彼らに向くのは時間の問題だろう。

 澄ました表情でことの成り行きを見守る老人は、ぽつりと呟いた。

「あー……、思った以上の騒ぎだな」

 面白そうに笑う老人――葉山 甲斐はタブレットの動画を眺める。
 動画のタイトルはとっしーの男でもできる詐欺メイク。美容系ユーチューバー【とっしー】こと杉藤 俊雄の動画だった。

投稿動画:9分55

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