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アラサー女子向けの「エモ消費」マーケティングを素直に喜べない

※1995年生まれ、「ガールズカルチャー」と呼ばれるものはひとしきり味わった会社員(女)による個人の感想です。

 ここ2,3年で、アラサー女子(ざっくりと、92〜98年生まれ)・平成に生きた女児が子供の頃好きだったカルチャーをモチーフにした商品がかなり増えたように感じる。
これからの展開を考えると批判になりかねないので具体的な商品名やブランドは言わないが、例えば

・子供の頃着ていたアパレルをモチーフにした商品
・子供の頃放送していたアニメやマンガをモチーフにした商品
・その他、子供の頃流行っていたカルチャーを彷彿とさせることやもの

などである。
これまでも、それらを取り上げるYouTubeや読み物(ネットニュースのコラムなど)に「コンテンツ」としては存在していた。
子供の頃放送していたアニメの主題歌メドレーのYouTube動画や、「○○年生まれ集まれ!小学生の頃流行った'アレ'集めました♡」的な記事である。

コンテンツは単なる「懐かしい」「エモい」と共感する、「エモ」を感じる装置でしかないが、それが今や、「エモ消費」としてあらゆる商品(形)になり販売されている

私はこのアラサー女子向けの「エモ消費」マーケティングについて、ちょっと納得がいっていない。

「エモ消費」について

 令和時代になり、かつコロナ禍の影響で人々のお金や時間の使い方は変わっていった。その中で、新しい消費スタイルとして「エモ消費」が提唱されるようになった。
エモ消費の定義は以下だ。

精神的な満足度を得るための消費行動
https://manamina.valuesccg.com/articles/2179
エモ消費は、自身の認証と達成や社会的役割を感じる、コミュニティーへの帰属意識を求める行為とも言える。
具体的には、アイドルの握手券を買って応援する行いに社会的役割を感じたり、インスタ映えする写真をアップして社会での存在意義を確認したりと、「刹那のコミュニティー」をつくって社会へ帰属するという意識だと、講師は言う。マーケティング的には、エモ消費のためにコト・モノが手段として必要となり、活性化が促進されるので、ソロたちの根本的な心の本質を探してから商品開発すると、拡大の可能性が広がるだろう。
http://www.bbt757.com/servlet/content/41590.html

 つまり、お金を使い何らかの精神的な部分が満たされることを社会は「エモ消費」と呼んでいる。

アラサー女子たちにとって、子供の頃のコンテンツがモチーフになったものを消費することを「エモ消費」になぞらえると、同世代の帰属意識や、
「私、これが好きだった頃から大人になったなあ、頑張って生きてきたよね」という自己肯定に似た気持ち(=エモーショナル)が満たされる体験が考えられる。

 しかし、私は昨今の頻発するアラサー女子向けの「エモ消費」的商品たちは「ほら?これ懐かしいでしょ?好きでしょ?買うよね?」と言わんばかりの雑なエモ煽り消費マーケティングに思え、いくら自分が子供の頃好きだったブランドだったとしても、素直に喜んで手に取れないモヤモヤを感じている。

とはいえ、この流行りがなければあの頃私たちが好きだったカルチャーが再び流通の場に登場することはないので、単純に「わー懐かしい♡」と自分も消費して楽しめば良いのに、とも思う。

「私はひねくれている」と一言で片付けられるが、せっかくなので抱えているモヤモヤをもう少し分解して考えることとする。

結論から言うと、「商品それぞれにエモ的シンボルを使った理由(ストーリー)が感じられない。私たちの思い出というエッセンスをただ加えた商品に見え、購買意欲が湧かない」からなのだが、あえてそれを深掘りしていく。

「Y2Kが流行っているし、別にあなたたちがターゲットなわけじゃないよ」という反論があるかもしれない。しかし、Y2Kとして新たに再解釈されたファッションやカルチャーとは明確に違うものであり、ここでは明らかに私たちアラサー女子へ「エモ」を想起させる商品群を指す。
(例えば、ipod classicはY2K。アラサー女子がハマっていた匂い付き消しゴムはエモ。)

そもそもなぜアラサー女子がターゲットになっているのか

 なぜアラサー女子向けのそういった商品が今増えているかをまず考えてみる。

「アラサー女子」は25歳〜30歳の20代後半を主に指すことが多いが、日本のアラサー女子は、周りや自分の環境が変わりやすく、自分自身も揺らぎやすく、またいろいろな面でサンプル豊かな年代といえる。

結婚して子供がいる人もいるし、結婚はしたけどまだ子供はいない夫婦もいるし、彼氏がいる人もいるし、いない人もいる。「パートナー」という分類のステータスが幅広くなっていく。
 また「仕事」においても、転職をすでに2回してキャリアアップに励んでいる人もいるし、1社目で安定したゆるキャリOLをしている人もいる。
その他でも、推し活に勤しんでいる人もいるし、推しはいないけど全部のイベントごとに積極的な人もいる。

それが一人一つの肩書き(ステータス)ではなくて、ベン図的に重なり合ってその人になっている。

上記は男女問わずな状況ではあるが、そんな中で、「アラサー女子」と一括りにしてなにか消費を起こすのは難しいのではないかと思う。
ここで「エモ消費」が効いてくる。

①「私たち」の共通の思い出

 2023年における「アラサー女子」は、今のメインSNSが日本でも使われるようになったのが中学生〜高校生くらいであり、当時使っている人は一握りだった。
そのため今のような流行りやトレンドを発信するツールとしてSNSが使われていたわけではなく、子供の頃には雑誌が「流行り」や「イケてるもの」を発信する役割を担っており、みんなで雑誌を読んでいた。中学生くらいまではファッションの系統の違いで雑誌が分かれているわけではなく、「年代向け」の雑誌が、内容は大きく変わらず数種類あった。

アラサー女子も「Z世代」と被ってはいるものの、デジタルネイティブかつSNSが生活に根付き流行りや好きなものがさらに細分化されている少し年下にあたる真のZ世代と比べると、体感的に「右に倣え」精神が根底にある。
今のアラサー女子世代は、Z世代とはいえマスの「流行り」や「みんなが好きなもの」を割りかし重要視する傾向にあるのではないか。

そんな時代背景を生きた我々は、「子供の頃好きだった」ものやカルチャーはみんな通っていた。
どれみちゃんはだいたいみんな観ていたし、土曜9時日テレドラマには押し出し中のジャニーズタレントが出演し、月曜日休み明けにドラマの話で盛り上がる。
ニコラ派かラブベリー派かピチレモン派かで議論する。
プロフィール帳の交換やタイルシール最強説などの女児カルチャー、缶ペンケース。
子供の世界はまだ狭いので、「クラスや仲良しグループで話が合わせられる」が最重要事項になる。

 ライフステージも価値観も今やバラバラになってきている私たち世代にも、現在の趣味嗜好問わず幅広く受け入れられるのが、「子供の頃好きだったもの」なのではないか。

②他の世代よりも消費が盛ん(憶測)

 不景気で物価も日々高騰しているので家や車など大きい値段を決して簡単に動かせるわけではないが、何か特別な事情がない限り日々のプチ贅沢を嗜む事ができるのも、「アラサー女子」である。

 これも自分と自分の周りに限った憶測ではあるが、概ねアラサー女子(特に会社勤めをしている)はまだ結婚して子供がいる人は少数派で、大体は結婚したとしてもまだ子供はいない人、彼氏の有無に関わらず独身の人が大多数である。
 養わなきゃいけない家族もいないため、今のところは「自分のために使ってもいいお金(可処分所得)」はやりくり次第で存在する。

 上記の金銭的・時間的余裕も相まって、「推し活」に励むアラサー女子が割りかしいる。しかも平均すると結構、お金と時間を使う。大学生に負けない。

 社会人になってから、大学生とは比にならないストレスを抱いたり、コロナ禍でのストレスなどから「推しを応援する」という生活とは別の非日常な生きがいを見つける。
学生時代ぶりか、もしくは初めて「推し」が出来た、というケースを沢山見た。ちなみに自分もその1人である。

 つまり、アラサー女子の何割かは「推し活」によって「エモ消費」を常日頃している当事者たちであり、「エモ」による刹那的な消費行動にも慣れているため、アラサー女子的マーケティングに当てられたらすぐ「買う」という選択肢になりやすいのではないか。

( 余談だが「推し活」をしている人(オタク)が一番経済を動かしているのではと数年言い続けられていたが、ついに企業が「推し活女子向け」みたいな、ストーリー性が滅茶苦茶な商品を売りつけ始めているのも同じくトレンド。
うちわケースとかの推し活応援グッズを飛び越えて、「推し活×お菓子」とか「推し活×エクササイズ」とか…。
美容まではまだ分かるものの、掛け合わせは我々推し活をしている当人たちの意思による結果なので、セット販売されるのは、また違うよ…と思う)

 以上のことから、企業にとって今ドル箱は「アラサー女子」になっているのではないか。
(もちろん昔からアラサー女子向けの商品はたくさんあったと思うが、どちらかというとお悩みお助け系・ライフハック系が主で、現在のような感情だけつき動かされて実用性や必要性があまりない商品は少なかったように思える)

 ここで、「アラサー男子」だって似たような境遇なのだからアラサー男子向けの消費だってあってもいいのでは?と思うかもしれない。
アバレンジャーの定期入れとか、ムシキングのカード型のハンカチとか。
しかしそういうケースはほとんど見かけない。仮に仮面ライダーの服飾雑貨とかあっても買うのはコンテンツのガチファン(しかもおじさん)という実態がある。

恐らく、俗に言う女性の「共感性」という性質からしても、女性向けにそう言った「エモ消費」を促した方がより確実に売り上げにつながるのではないか。
「懐かしい」という、共感で。

「エモ消費」の元祖、「セーラームーンコスメ」

 冒頭で申し上げた通り、私は日本のガールズカルチャーにかなり傾倒して幼少期から大学生まで過ごしてきた当事者だった。
大学の卒論も、「日本の女の子のファッションやカルチャー、アイコンの変遷と未来」的な内容で書いた。

それなりの自負を持った上で、この女児向けカルチャーを使った「エモ消費」の元祖とも言って良い商品がある。
それは、バンダイから発売された「ミラクルロマンス シャイニングムーンパウダー」という名前から既にだいぶエモーショナルな商品にはじまる、セーラームーンの作中に出てくるアイテムをモチーフにしたコスメ商材である。

 同商品が初めて販売されたのは2013年で、現在も復刻版が発売されたり、別シリーズ(セーラームーンにはいくつかアニメのシーズンがある)や商品(他にもリップやチークなど)が展開されており、常に予約殺到・完売してしまう大ヒット商品である。

↑2022年にも復刻版が発売された

 この商品を考案・販売しているバンダイは元々セーラームーンの変身アイテムを含めたあらゆる玩具を作っている企業である。
(バンダイはライフスタイルやアパレル、コスメ等玩具以外の事業を自社で展開しているため、このような商品を自社で作りやすいという強みがある。)

「セーラームーン」は、中学2年生の普通の女の子たちがある日前世からの巡りでセーラー戦士となり、現れる数々の悪と戦っていくストーリーだ。男女雇用機会均等法が施行された年に放送が始まった、初の「女の子が主人公の戦隊モノ シリーズ」である。

主人公の月野うさぎは、「ムーンプリズムパワー メイクアップ」という掛け声と共に、セーラームーンに変身する。
つまり、セーラームーンが変身(メイクアップ)して戦うのと、普通の女の子が「変身」して社会に出て戦う(働く)道具としての役割を重ねることができる。
私たちだって、メイクアップ(変身)して、強くなる!
そうやって、私たちに勇気と活力を与えてくれる。

バンダイが作っているからこそ「ガワ(変身アイテムが再現されたパッケージ)」の完成度も非常に高いため、セーラームーンファンのコレクト目的の購買層も少なくないものの、
買う理由がただ懐かしさを覚える「エモ」だけでなく、働く女性(商品が発売開始当時のアラサー女子)へのエンパワメント的役割も果たす「エモ消費」として発売されたのがセーラームーンのコスメたちと言える。

しかもそれを、元々アニメのグッズを作っていた企業が販売するのだから、どこかの企業が「エモ」に便乗して商品を売っているわけでもない。
 クラウドファンディングや、コロナ禍でメジャーになりつつある「企業を応援する」意味での「エモ」消費としても、成り立つ商品である。

昨今のアラサー女子向け「エモ消費」について

 先述で例に挙げた「セーラームーンコスメ」は私も買ったし、今でも思い出に残っている素晴らしい消費体験だった。買ったのは恐らく2016〜17年辺りだが、未だに宝物としてとってある。
(ちなみに見出しの画像はそのコンパクト=フェイスパウダーである)

つまり、私は「エモ消費」が嫌いなのではなく、昨今のアラサー女子向け「エモ消費」の商品たちから「セーラームーンコスメ」のようなストーリー性やマッチングが感じられず、単純に「懐かしさ」を感じさせるだけの商品に面白みがないと思ってしまう。ただ、私たちの「エモ」を消費させられるだけ。言い過ぎると、ただ私たちの「エモ」が雑に扱われ、浪費される感覚。。

実際に、冒頭の例に挙げたアラサー女子向け「エモ消費」を考察する。
商品のストーリーの有無を判断する基準として、①販売する企業 ②販売する商品 ③販売する理由 の3点を設ける。
※商品販売時のプレスリリースなどを調べた中での傾向です。また、何度も言いますが良し悪しは個人の感想です。

●子供の頃着ていたアパレルをモチーフにした商品

①販売する企業 △
 (概ね新規商材は旧企業で販売。復刻アイテムもあるが、別の企業が出しているケースも。)
②販売する商品 △
 (当時販売していなかった商品や、ブランドに関連性のない商材が販売されている)
③販売する理由 △
 (③に関しては、完全に「エモ」を売りにしている企業が多い。できれば、エモ以外にも理由が欲しい。)
⇒グレーゾーン。

 色々な事情はあるかと思うが、アパレルが販売されるとしても、当時の商品がそのまま復刻されたわけではなく形を変え新しい商品として販売される傾向が多い。
また、なんとなく手に取りやすいような食品や生活雑貨、コスメが多い。

商品が販売されるにしても当時のアパレルメーカーではなくどこか他の企業から販売されるので、昔買っていた企業の応援にもならない。

個人的には、いくら大人になったからと言って大人向けに販売されても正直日常遣いが部屋着や行けてワンマイルウェア、話題作りで着ていくことに限られるので女児当時のような「ファッション」としては楽しめない。
ワンマイルウェアにしては、いくらアラサー女子といえど少し高く感じる。
だったらGUとかでコラボして欲しいけど、そうしたら企業の応援に、、(経由ではあるだろうけど直接の応援にはならないのが残念)という。

③に関しては、当時だって食玩とか生活雑貨とかの謎コラボの指摘が考えられるが、それは当時「パワーがあるものとのコラボ」として存在していたわけで、「エモ消費」を売りにしているならば、現代ではちょっとその商品である理由づけが弱いな…と思ってしまう。

●子供の頃放送していたアニメやマンガをモチーフにした商品

①販売する企業 ○
 (文具など一部外注している商品もあるが、概ね元々おもちゃ作りに携わっていた企業から販売されている)

②販売する商品 △
 (文具や雑貨、展覧会やPOPUPイベントをやると商品数が大幅に増える。消費の一環。しかし、身につけるだけでちょっと心の支えや帰属意識が芽生えるのなら「エモ消費」ともいえる。)

③販売する理由 △
 (セーラームーンのような「変身」がストーリー内に出てくるものは同様のエンパワメント効果による「エモ消費」となる)
⇒概ねOKくらい?

基本的に、コンテンツ自体にストーリーがあるので「エモ消費」はアニメや漫画と相性がいい。
少し世代違うけれど、「矢沢あい展」とかも大盛り上がりだったからね…。

その他、子供の頃流行っていたカルチャーを彷彿とさせることやもの

①販売する企業 ?
 (まさしく私がアパレル編であげたようなコラボものが多くて、実際の企業から販売しているものはなさそう。)

②販売する商品 △
 (流行りの文具雑貨だった商品が食品として売られていたり、無形のものがアパレルや雑貨になっていたりと別の形になっていることが多い)

③販売する理由 △
 (ほぼ「エモ」が売りで完結。)
⇒グレーゾーン。

まあ、こんなにわざわざ分析しなくても肌でわかっていたことなんですがね…。

ちなみに、商品ではないので例には上がらないが、今クールのドラマ「ブラッシュアップ」に登場するアラサー(実際のペルソナは少し年上だがより幅広い層)の女児時代の描写は非常に解像度が高く、我々世代の共感とエモが渦巻く最高の演出がなされていた。

↑シール帳文化におけるヒエラルキー上位のシール種や、交換ルールなどリアルな解説が作品中にあった。

主人公の年齢に合わせた年代の風俗描写が度々あるが、日テレというテレビ局だからこそ出来る演出がありそれもかなり「エモ」体験だった。
(ズームインからのZIP、その時のゴールデン帯の番組、ドラマなど)

おわりに

 ここまで書いておいて、一言で表すなら「私はひねくれている」、ただそれだけ。

でも、もしこんな私でも望んでいいのなら。
せっかくアラサー女子向けの「エモ」を題材にした商品が販売されるのであれば
セーラームーンコスメのような、懐かしさ以外にもなにか感情が動かされる「エモ消費」がしたいなあと思う。

万が一奇跡が起きて、担当者の方の目に触れる機会があれば頭の片隅に置いていただけると幸いでございます。

もしくは、モノを作る立場にあるアラサー女子の皆様、ぜひよろしくお願いします!!

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