映画『勝手にふるえてろ』を観た

『割り切りだろうが幸せは幸せで良いんじゃないかという問いかけ』

※本作品はイチカという女性と数字を表す「イチ」「ニ」という2人の男性が軸となって展開するドラマです。下記タイプミスではなく人物名が「ニ」です。

映画『勝手にふるえてろ』を観た。これは作家・綿矢りさの2010年同タイトルの小説が原作。私は『蹴りたい背中』が出た頃からかれこれ10年以上彼女のゆるいファンで、作品は全てハードカバーで持っている。2012年『しょうがの味は熱い』は何故かサイン本が吉祥寺の書店にあって、偶然見つけた時は興奮した。綿矢さんが書く人物は「日陰しか歩いて来てません、スクールカースト最底辺万歳」っていうタイプが多く、それだけだと手垢のついたありがちな設定になりそうなところを上手く狂わせていてその手練が推せるポイントなのである。こんな人物ばっかり書くのに美人だし。

主人公イチカも、やっぱりちょっとブッ飛んでいる。だけど憧れる。出来そうで出来ないこと、やり方は見えてるけど出来ないことをやってのける人には憧れを抱くものだ。自分が嫌なことをされた。傍から見たらちっぽけな事件だろうけど、んなこと私には関係ない。私が嫌つったら嫌なんだよ。一個人に対してマジでムカついていて涙も出て、絶対被害妄想だけど、会社の人全員から陰で笑われてる気がしてきた。もうここで働くの無理では?無理無理、はい辞めます。辞めまーーーす!!!これほどシンプルでいわゆる”馬鹿”な「はい辞めます」は見ていて爽快である。

イチカの闇はもっと深い。物語序盤で、道行く5人くらいのご近所さんと思われる人物とテンポよく世間話をするシーンがあり、あたかもその人とイチカは友人であるように描かれているのだが、後半に入りそれは”全然話したことない全くの赤の他人、今までの会話は妄想でした★”ということが突然判明するのである。アパートの隣人や会社の同僚、そしてこのご近所さんと会話があったからこそ”イチカだってちょっと傷つきやすい「普通の」OLなだけだもん説”が残っていたのに、このクセが強い妄想癖が露呈し崩壊する。そして今まで劇中に敷かれていた”イチカのやばさ常軌を逸している説”という導線に見事に着火することになる。よく見かけるご近所さんとはいえ、「わ、おしゃれな人」とか一瞬印象を抱くにしろ会話する妄想までする?

イチカのやばさは常に露呈し続けているが、ニの前になると一旦停止する。”自分はこいつ(ニ)に好かれているドヤぁ”の正のパワーは強い。泥酔してげーげーのニを見て「ないわ~」と切り捨て帰るかと思いきや自販機で水を買って蓋を開けて渡してあげる余裕、こういう優しさが自然と生まれている関係を見るとイチカとニが付き合うのは推せるなぁ。そしてイチカがこんな風に狂人と常人を行ったり来たりするのでこの映画は混乱し、長く感じる。

混乱する要因は他にもある。不協和音全開でオカリナを吹き続ける隣人、イカ東(いかにも東大)ならぬイカ痛な男性が繰り出す頭痛がするような行動の数々、なのにそんな男性に好意を持つあきれた男の趣味の親友、ミュージカルさながらの長尺で歌うイチカ。

他に印象的なシーンといえば、会社の休憩時間に狭い和室でみんなで寝転がってするお昼寝タイムがあるのが不気味だった。私にも小さい頃にも同じようなことがあったことを思い出した。時間単位の保育所に数時間だけ急に預けられた時のこと。「お昼寝だよ」って1時間前に会ったばかりの知らない大人に言われたのがすごい違和感で、「なんで私に寝ること強制するの?」と幼いながらに思ったことを思い出した。結局私はお昼寝せずに牛乳パックをハサミで解体し続けていたわけだけど、こういう風に他人に抱くありふれた違和感を、イチカが諦めたりぶっちゃけたりする様子に感情移入するんだと思う。

あとは、キャスト!ニがすごく良い!単純にニを演じる渡辺大知(黒猫チェルシーのボーカル)の顔が個人的に好きなのもあるけど、原作よりも愛されるキャラクターに昇華されていた。序盤のニの”あるある”なウザさ、女子会でネタにされそうな行動の連発、「いやーこんなの彼氏にしたくないよね、イチカよ、わかるー」と思いもしたけど、なんだろう、イチカとのやりとりで生まれるニのリアクションは原作を上回る可愛さ。「写真より動画の方が可愛い」とはこういうこと。写真じゃなく文章だけど。この人の顔印象的だからけっこう沢山の作品に出ていると思ったけど、私が知っている作品には出ていなかった。どれほど顔が印象的かっていう…。この活躍の系統はポスト峯田(銀杏BOYS)ということを学びました。雰囲気だけでいうとイエモンのボーカル宮本さんみもある。

そして松岡茉優の凄さにようやく気付けた。主人公イチカを演じるのが松岡茉優だと知った時は、「原作よりもパワフルなイチカになりそうだな」という印象だったけど、こういうサブカル~な役も自然だったので彼女を見直した。バラエティ番組に出ている彼女は「ガサツ!元気!負けないぞ!かわいいでしょ!」と圧が強めだったから。見ていたドラマ内でもそういう負けん気キャラが多かったし。でももうイチカは十分彼女のものだと思った。

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