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かりんのジャム

 「季節の手しごと」、そんな言葉に誘われて、かりんを買ったのはある秋のことでした。
 
 「季節の手しごと」と書かれたチラシには、かりんのはちみつ漬けとジャムの作り方が書かれていて、はちみつ漬けなら、かりんを切ってはちみつに漬けておくだけだから、これならできそうだと思い、かりんを買ってみたのです。さっそく、はちみつ漬けを作ろうと作業にとりかかったところ、用意していた瓶が小さくて、かりん全部は入りそうもありませんでした。そこで、残りのかりんはジャムにすることにしました。ジャムは面倒そうだなと思っていたのですが、仕方がないのでジャム作りに挑戦しました。

 かりんのジャム作りというのは、手間がかかりますが、やったことのないジャムの作り方で、おもしろいものでした。いちごやブルーベリーなどのジャムの場合、果実を砂糖と煮詰めるのですが、かりんの実はかたく、そのような作り方ではないのです。かりんを縦半分に切り、かりんの種を取り出し、皮をむき、種と皮を鍋に入れ、かぶるくらいの水を入れ、とろみが出るまで煮て、濾します。濾した液体に切り分けた果肉と砂糖を入れて、煮ます。そして、さらに濾します。その液体を鍋に戻して、とろみがつくまで煮詰めて完成です。かりんの果肉や皮は入っていないけれども、かりんのエキスをたっぷり閉じ込めたジャムができあがります。かりんの皮や種、果肉もすべて取り出しているのに、口に入れるとかりんの良い香りが広がって、不思議な感覚になります。色は琥珀色をしていて、何だか魅惑的です。

 かりんの実はかたくて渋みが強く、生食には向かないものですが、香りや抗菌作用など、かりんのもつ良いところを抽出して、暮らしに取り入れようとした人はすごいなと、この作り方を通して思いました。また、かりんの実や皮はないのに、かりんを感じることのおもしろさに、思い出というものもそういうものかもしれないなと思いました。思い出というものは、かりんのジャムの作り方のように、ゆっくり時間をかけて濾されて、それぞれの人の心の中に凝縮されて残ってゆくもの、そんなことを思いました。

 今回は、かりんのジャムのお話でした。お読みくださり、ありがとうございました。


 

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