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フェミニズムブームを量的に把握する〈前編〉

近年のフェミニズムブームへの疑問

なんとなく、ブログを書いてみようと思ったので、
近年の、ジェンダー・フェミニズムブームについてあれこれ書いていきたいと思います。 
近年、ジェンダーやフェミニズムの問題は、国際的かつ社会的アジェンダとなり、マスメディアやSNSにおいて日々様々な議論が展開されています。
語りたいことはたくさんあるのですが、最初に少し、今回このブログ記事を書こうとしたきっかけをお話したいと思います。

背景には、近年インターネットで見るフェミニズム的なものや、ジェンダー・フェミニズムブームへの疑問があります。
私は自認としてはフェミニストで、表現者で、表現の自由を支持しているのですが、
私にとってこの近年のフェミニズムブームは、体感的には、ほとんど、様々な表現の炎上として経験されてきたからです。
自分が見るインターネット、SNS上のフェミニズム(的なもの)と、メディアが報道して描くフェミニズムがどうにも乖離してるように見えましたし、一般の感覚や国が提示するデータ・調査資料とフェミニストたちの設定する議題の乖離も感じていました。

とりわけ以下の4点が強く疑問を感じていた部分です。

  1.  批判の対象が、「悪しきステレオタイプ」なのか、一定の「認知バイアス」の結果なのかわからないと感じることも多くありました。

  2.  近年盛り上がっているというフェミニズムの主張を見ても、「ファクト」のない「オピニオン」に見えるものが多かったです。

  3. 定量データと定性データの双方から分析するのではなく、定性データのみで、かつ、定性データをそのまま政治的オピニオンにした記事がメディアで拡散されることが多いと感じていました。

  4. ポリコレやフェミニズム風の言葉を帯びた実質的「言葉狩り」が横行しているように感じていました。

近年のインターネットフェミニズムへの疑問


インターネットで「女性表象」が炎上するメカニズム

例えば、 東京メトロの公式キャラクターである駅乃みちかが「鉄道むすめ」とコラボレーション行った際に「鉄道むすめ公式サイト」に発表された、萌えキャラ版みちかのクリエイティブが炎上したことがあります。
この時炎上の発端となったいくつかのツイートでは、萌えキャラ化された駅乃みちかのイラストに、「表情が性的」「体をくねらせて扇情的」「スカートが透けてる」「ほほ赤らめてスカートの中が透けてて泣きそうな顔でおしっこ我慢するポーズ」など、それ自体が扇情的で、有害性を強く訴えるような言葉が添えられており、それらが数多く拡散され炎上しました。
しかし、冷静になって、これらの言葉抜きに駅乃みちかのイラストを見ても、同じイメージが惹起されるかは大いに疑問です。

性的なのは、駅乃みちかのイラストか?イラストに添えられた言葉か?

駅乃みちかのイラストそのものが与えるイメージと、これらの言葉が示すイメージは一致するものなのでしょうか。
駅乃みちかのイラストが、いかに政治的に正しくないものなのかというオピニオンに賛成したり、反対したりする前に、以下のようなことを顧みて欲しいと思うのです。

  • 怒りには人を興奮させ、依存させる力があり、SNSにおいて最も早く遠くまで伝わる情報は怒りであり、他の感情を圧倒するという研究もあります。(参考:『140字の戦争――SNSが戦場を変えた』デイヴィッド パトリカラコス (著))

  • 人間は、言語を介在したコミュニケーションをする動物なので、広告表現においては描かれた人物や背景よりも、コピーの方が影響力があるとも言われています。

  • 広告上で描かれた人物や背景はコピーの情報を通して解釈されます。

何が言いたいかというと、炎上したクリエイティブそのものと、炎上するきっかけとなる投稿は、そもそも別のものであると考えられるということです。
炎上したクリエイティブは、クリエイティブそのものではなく炎上起点となる投稿を行った人物のフィルターを通して、発端→拡散→炎上し、メディアで報道され、世間に是非が問われます。(『ネット炎上の研究: 誰があおり、どう対処するのか』や、著者の山口真一さんの研究に詳しい)
このあたりに関しては、『情況』2022年4月号に発表した論考でかなり詳しく書きましたので、ご興味がある方はどうぞ。


ポリコレはマイノリティに必ずしも支持されているわけではない

今年1月、お願いマイメロディのキャラクターグッズが、SNSでの炎上をきっかけに、突如販売中止になりましたが、この件に関して、 販売中止に賛成する人が4.4%、反対が56.2%、どちらでもない39.4%というアンケートもあります。
ジェンダーステレオタイプへの配慮と言うけど、「実質言葉狩りのよう」「かえって生きづらくなってしまう」と言う声もありました。
当たり前ですが、ポリコレ的表現が必ずしも女性やマイノリティに支持されているわけではありません

参考:マイメログッズ「販売中止」に137人が賛否。“ジェンダー表現”の物議に「息苦しい世の中」の声も


フェミニストへの不信感

江原由美子さんは、現代ビジネスの記事「フェミニストはなぜからかわれるのか?からかいという行為のズルい構造」という論考の中で、50年前のリブ運動に対する「からかい」と、半世紀後のフェミニストに対する「からかい」をほぼ同じ出来事として扱っていました。


フェミニストはなぜ「からかわれる」のか? 「からかい」という行為のズルい構造

しかし、半世紀前大手メディアのライターにフェミニズム運動や運動の参加者が「からかわれた」ことと、現代のネットユーザー間の行為は本当に同じでしょうか?
当時と現代では、フェミニズムの受け止められ方そのものが違っていますし、メディアやテクノロジーの状況も異なります。何より、大手メディアライターの記事と、いちネットユーザーのつぶやきを安易に同一化するということが、著名なフェミニスト教授によって行われることに、言い表せない不誠実さを感じたのが正直なところです。

最初に触れた通り、私がずっと感じていた近年のインターネットで見るフェミニズム的なものへの疑問。それはフェミニズムブームの量的な把握がいまいちなのではないか、定性的なフェミニストエッセイやジャーナリズムからこぼれ落ちたものがあるのではないか、ということです。
もちろん現代で情報の全量データを把握するなどという事は不可能なのですが、それにしても、データを把握しようとする努力は必要なんじゃないのか、それを著名な研究者がすっとばす学問って一体なによと思っているのです。

前置きが長くなりましたが、次からは本題である、フェミニズムブームを量的に把握することを試みていきたいと思います。


よろしくおねがいします!