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メガネ朝帰り ①

 麻のシーツで寝返りを打つと浅い微睡みがぶり返す。あれは夢だったのだろうか。
「おおい、今度是非遊びに来てくれよ。うちのがあんたに礼がしたいって。絶対だよ」
場違いな大声、回らない呂律。
「ハイハイわかりましたよ」
知らない男たちに宥められ両脇を支えられてあの人が帰宅したようだ。またか。出迎えると癖になるから寝たふりだ。いやこれはただの夢なんだ。本家の奥さんが亡くなって一年。彼はハネを伸ばしハメをはずしとにかく自由を謳歌している。飲み屋で知らない人に奢り奢られおしまいにうちまで送ってもらう。はじめのうちは彼の連れてくる客人と丁寧に向き合っていたが、もう知らない。私だって眠りたいんだもん。そしてあの朝玄関先に戻ってきたのはひび割れたメガネだけだった。私が見立てたやつだ。あの人は来なくなった。どこでどうしているのかも知らない。もしかして昨夜あなたと出会って盛り上がってそのままそちらに根が生えてしまってる? 幸運の芽がね?

410文字

「この人を知っていますね」
警察がやってきて写真を見せられた。
「はい、父です」
「お父さんガンだったんですね。遺書もありました」


たらはかに様のお題に参加しています。

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