患者さんのカルテは5000円相当のA4サイズの菓子箱に入っていました。空き箱は大きさや形状ごとに分類されて待合室や受付にさりげなく積み上げられていました。子供心にもあれはクッキーこれはチョコレートなどと観察していると注射の恐怖も紛れるのでした。
「婦長、聴診器はどこだね」
「海苔の缶の中です」
　あっ、あれは母さんが用意していた本家の伯父さんの香典返しの海苔の缶ではありませんか。伯父さんも確かここに入院していたはず。

　やがて内部告発があり脱税が発覚したとかでその病院は潰れてしまいました。後から見つかった地下室の大量の空き箱には封筒を貼りつけた糊の跡が残っていたということです。（缶の中身はカサカサのパリパリに干からびて黒ずんでいたとか）。
　あのとき気がついていなければ私も危うく海のモズクと消えるところでしたよ。夏も終わるというのに超辛気くさい話でごめんなさい。

　お医者さんごっこをしてたらおばあちゃんが話してくれた。

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