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丘の上の本屋さん

 ほのぼの系イタリア映画だと思って見るからいけない。これはユニセフのキャンペーン動画であり、例えば公共広告機構のお知らせの類いを80分も見せられて辟易するだろうと覚悟して見れば思いがけずまるで映画みたいじゃないか、と感動するに違いない。といっても全く問題がない訳ではなくて、リベロおじさんが移民の少年にオススメする本の数々はあまりにも古色蒼然としていないだろうか、さらにいくら彼の幸福になる権利のためとはいえ、無料貸本屋状態では古書店という商売が成り立たないのでは。オススメの本の中にはイソップ寓話が含まれていた。(イソップ寓話は英文でもショートショート並みの読みやすさでオチの解説がある点が良いのだが)イソップが少年と同じ肌の色をしていた、を導くための糸口である。つまり彼はアナトリア(トルコ)だかバルカン半島だかの出身なのだ。民族的な対立を抜きに語れない人権問題。書物の背景には書き手の立場や時代がついてまわる。それでも本はとにかく面白く読めばいいのだ。新しければいいというわけでもない。

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