メガネ初恋

 押入れの奥からひょっこり現れた箱を開くとほのかに桜の香りがした。古ぼけた眼鏡ケースに子どもっぽい眼鏡が入っている。広げてかけてみると右にだけ弱く度が入っている。おそらく私のものだ。少しも晴れない視界にほかの物が見えてきた。ツルゲーネフ、島崎藤村、宇多田ヒカル、ハリー・ポッター、冬のソナタ。手紙の束、交換日記帳。そして修学旅行で買ったおそろいの。
「やっぱりこの箱の中身は捨てられない!」
眼鏡を戻すと箱ごとそっくり押入れに戻した。それを見ていた母は私が眠っている隙に家に来たまじない師にお祓いをしてもらったようだ。もって嫁くのはやめたほうがいいわといいながら。箱は色褪せて桜の香りも消えていた。     
 それが再び目の前にある。実家の片付けを手伝ってくれた娘がたまたま見つけたあの箱。持って帰ってそっとお供えしてくれている。誰に似たのかこの気持ちがわかる立場になってしまったのね。こっちで誰と過ごしているのかは内緒よ。

410文字

「とにかく母は整理整頓が苦手で断捨離できない人でした。歴代メガネや元カレグッズ? があちこちにバラバラ、箱がいくつもあってもう大変。あの一箱だけは奇跡的にまとまっていたのです」


たらはかに様のお題に参加しています。

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