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花吹雪

 花吹雪という舞台演出係がいた。クライマックスシーンで役者が没原稿やら別れの手紙札束犯行時に来ていたシャツ離婚や婚姻の届出用紙といった小道具を細かく引き裂いてぱあっと撒き散らす場面があるとする。もちろんキレイに素早く細かくするのは技術と体力がいるし、勿体無いと思う心も邪魔するしそれをちゃんと風に乗せるには何回もトレーニングが必要だ。子どもが真似をするとゴミが散らかる。花吹雪はそんなとき便利だった。あらかじめ細かく引き裂かれた紙片をくす玉のように炸裂させるのだ。観客は飛び散る花吹雪に目を奪われ、スーツにまとわりつく紙片をはたき落とすのに夢中になった。そんなふうに終盤で全部持っていってしまう花吹雪は実は嫌われていた。やがて一握りの紙片を軽く投げあとはプロジェクションマッピングであたかも花が舞っている如き演出がなされるようになった。

「ふふ、吹き飛ばしてやったわ」
雪月花のセンターを追われて不快だった月がほくそ笑んだ。

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