見出し画像

子どもの日

 子どもの日は洗濯日和だった。鯉幟が気持ち良さそうに泳いでいた。その日子どものいないはずの私は子持ちになった。本当の子どもではなかったけれど、人間の子どもでもなかったけれど、とにかく私はその子と一緒に暮らし始めた。決して近くではないし、滅多に行かない公園にたまたま出かけたらそこで置き去りになっていたその子は可愛らしくも賢くも無さそうで、誰も引き取りたがらなかったし、繋がれることをひどく嫌ってよく泣いたので仕方なく繋がずにいたら、しばしば一人で勝手に外出した。脱走というべきかも知れない。他所の子のフードを荒らしたりしていたと後で知った。そんな二人の楽しい生活はしばらく続いた私の命が持病で尽きるまでのあいだは。あの子は何処かに引き取られたという。空き家は何年も空き家だったけれど、ずいぶんたった洗濯日和の子どもの日に取り壊された。私の思い出はたまに戻ってくるだろうか子どもの日が巡ってくるたびに。

400文字

こちらに参加しています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?