見出し画像

謎の花を調べる試み

まだ薄暗く、それでいてほんのり明るいまさに朝ぼらけ、(「朝ぼらけ」なんだか寝ぼけてるみたいでかわいいよね)近所の河川敷をぷらぷら散歩する。太陽で温まる前の、朝露で濡れた草や土のしっとりとした空気が堪らなく好きだ。日本人の心、炊きたてご飯の香りとタメはるくらい。

ちいさい頃からじいちゃんに野猿の心を叩き込まれた私は、山や草木が生い茂る場所に行くと食べれそうな植物をサーチする癖があり、今日もキョロキョロと辺りを警戒する不審者みたいな動きで散歩していた

そういえば、夏にここらで見かけたノビルはどうなってるんだろう。細かったから採らずにいてそのまま忘れてたけど、秋はどんな姿になっているんだろうか

ふと思い出して探してみる。すると、生い茂る草むらの中にすっと伸び、数本に枝分かれした薹の先に咲く、小指の爪程の白い花を見つけた。しかも、結構な群生だ

試しに葉を千切って匂いをかいでみると、ニンニクのようなネギのような、刺激的な香り。
花は初めて見るが、場所は合っているし、これは昨年見たノビルなのだろう

しかし、油断は禁物。

良く似た毒草なんていくらでもあるし、春先の山菜シーズンには毎年必ず、同定しそこねて食中毒を起こした、というニュースが流れる

一人で食べてちょっと具合が悪くなる程度なら笑い話で済むが、家族と一緒に食べたり、よかれと思って知人にお裾分けをしたりして、嘔吐や腹痛、最悪の場合命を落とす場合だってある

特にノビルやアサツキ、ギョウジャニンニクは採取が比較的容易なこともあり、良く似ているスイセン、タマスダレ、イヌサフラン等、強い毒性を持つ野草と取り違える事が儘ある

近年では譲り受けたニラを育て、給食施設で提供したら集団で食中毒を起こし、よくよく調べてみたら実はスイセン類だった、というなんともな事故も起こっている(観賞用の植物と食用の植物が混在する花壇で育てていたりと、そもそも有毒植物と混合する可能性を考えていなかったりと、危機意識と野草に対する知識が足りなかったのもある)

話が長くなったが、道草を食って病院に担ぎ込まれるのは不本意なので、慣れ親しんだ野草であってもいつもと違う姿だし、早とちりせず改めてじっくり観察してから採取といこうではないか

まず最大の特徴であるネギ臭。これはさっき確認した通り、試しに一本千切っただけなのに、まだしっかりと手に残っている程鮮烈に香っている

次に、葉の形。
断面が三角で中空であるのが正しいのだが、これは当てはまらなかった

そして最も目立つ白い花。

そういえばノビルの花、そもそも別の場所で6月頃に咲いていたような気がする。
薹の先端に、黒っぽいムカゴが小さめのビー玉位の大きさに密集して着いていて、そこから薄紫の花がちょろりと出ていたような…

記憶の中のノビルは、目の前にある植物とはだいぶ違う。
一気に自信が無くなってきた。

こんな時はすかさずグーグル先生である。
知りたいワードをドンピシャで引き当てる検索能力がある程度いるけど、必要な情報にほぼタイムラグ無しでアクセスできて本当に便利だ。
この時代に生んでくれた両親にマジ感謝。

さて、画像を見比べてみると、なるほど、やっぱりノビルとは違うみたいだ

しかし、スイセンもタマスダレも、このノビル(仮)の様な特徴的なネギ臭は無いし、少なくともよく間違えるような毒草ではない事は確かだ。

ということはノビルの近縁の野草、アサツキあたりだろうか。

ところが、アサツキは葉が丸く中空で、そもそも花も紫のネギ坊主みたいな見た目で全く迷う要素すら無い

そしてもう一つ気がついたのだが、このノビル(仮)、花が咲き終わって枯れた所から入れ替わるように緑色の玉がでてきている。なんだこれは。


なんじゃこりゃ

なんかもう良くわからんので、思いついた単語を手当たり次第に打ち込んで検索してみる。数撃ちゃ当たるであろう

「ノビル 花」
「ノビル 花 咲き終わり 緑の玉」
「ノビル 似た野草 緑の玉 何?」

…生活は顔、生活は体型、知性は検索履歴に出る…のか…?

兎にも角にも、悪戦苦闘しながらようやく電子の海から掬い上げた答えは、個人的に意外な物でなんと

「ニラ」

だった

なるほど、思い返せばこの香りもアサツキやノビルとは確かに少し違う。
どちらかというとニンニクっぽさと、少し蒸れたような香り。
アサツキ、ノビルはもう少しスッキリピリリとしていた気がする。

ていうか、普通に道端に生えるんだ、ニラ。

「沖縄では空芯菜が雑草並みにそこらに生えまくってる」という話を聞いた時くらいの衝撃である

だって、一握り100円くらいするじゃん、ニラ。
徒歩5分の所に無限に生えてるのを、今までわざわざ買っていたと思うと、なんだか脱力してしまう

物心ついた頃から山の英才教育を施されて来たけど、逆に言えばじいちゃんの知っている以上の事・教える機会がなかった事は、当たり前だけど私の知識にはなり得ない

いくつになっても、生き物を追いかけ野山を駆け巡っていた頃の気持ちを大事にしていきたいものだ



追記

ニラの花をドヤ顔でじいちゃんに見せに行ったら

「おう、うちのニラも花が咲いたれや(咲いたよ)」

いや、実家にもあったんかい



調理回はコチラ↓


実食回はコチラ↓


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?