小説 介護士・柴田涼の日常 160 飲むと不穏になる便秘薬、新車がきた

 トキタさんは、夕食後トイレに立ったときに、尿失禁してしまい、ズボンを伝って靴下と靴までびしょびしょに濡れてしまった。靴はあとで浴室で洗浄し干した。

 このところ覚醒状態の良くないヨシダさんは、朝はヨーグルト一個、昼は八割ほど食べたが、夕方は一人しかいなかったのでナースに介助してもらい三割ほどで口が開かなくなってしまったようだ。この日から、痒み止めの薬をやめたそうだ。その薬が睡眠を誘発していたのかもしれないとのことで、寺田次長が「ヨシダさんの覚醒状態を見ておいてください」と言いに来た。今日一日発熱は見られず経過したが、排便がマイナス五日だったので、便秘薬を十五滴服用した。「明日は三人いるので、どうなってもいいでしょう」と真田さんは言った。

 同じく排便マイナス五日のセンリさんも便秘薬を十五滴服用した。夕食時、センリさんは不穏気味で、空になったお茶碗を受け取ろうとすると「なんで取るの」と怒り出されてしまった。「その便秘薬を飲むと不穏になるからうちのユニットは飲まないようにしてるの」と夜勤で来たFユニットの郡司さんは言った。その後センリさんは入れ歯をなかなか外してくれなかったので痛くないようにこちらで外したが、眠くなってきたのか比較的落ち着いておられた。臥床時も靴を脱がせたときに大騒ぎすることなく、オムツ装着時も静かだった。臥床後はすぐに入眠されていた。

 就寝介助が終わり、掃き掃除やら翌日のお膳の準備やらを終えると、記録に取り掛かる。こうしたことの逐一を丁寧に書くことはできないが、簡略に書いて、何があったのかを共有できるようにしておく。

 退勤して車に乗ると、フロントガラスが凍っていた。今年の十二月は平年よりも寒かったみたいだ。これからもっと寒くなるのだろうか。

 家に帰ってご飯を食べると、外に出たくなくなってしまった。この頃散歩の距離が短い。早くゲームがやりたくて仕方ない。ゲームがストレス発散になっているので、歩かなくてもいいのかもしれない。実験的な日々が続く。

 翌日はお休み。新車を取りに行く日だ。午前中に来るものと思っていたらしく、先方から電話がかかってきていた。午後に伺います、と言うと、「ガソリン満タンでお願いします」と釘を刺されてしまったので、三日前に入れたばかりだが、もう一度スタンドに寄ってから車屋に向かう。助手席には父親が乗った。信号で引っかかるのが嫌なので高速を使って行くことにする。

 新しい車は、ターボが付いている。代車にはそれが付いていなかった。アクセルを踏むと軽やかに動いてくれる。冬用のスタッドレスタイヤをはいているからかハンドリングもなめらかだ。ブレーキの効きもいい。座席もクッションが入っていて柔らかく座り心地がいい。フロントガラスも大きくて周囲が見やすくなっている。すぐにスピードが出てしまうのでスピードの出し過ぎには注意をしないといけない。

 車屋からは花と美顔ローラーをもらった。夏用のタイヤをかぶせておくタイヤカバーを購入した。一ヶ月後に点検があり、その後三ヶ月、半年、一年と点検をするそうだ。帰りにケーキとアイスを買って帰る。

 明日は早番なので、フロントカバーをかぶせていたら、間尺が合わず、もう片方のミラーまで届かない。ワイパーと両ドアで挟んでいれば風で飛ぶことはないかと思い、当面はそれで我慢することにするが、もう一回り大きなものを買っておいたほうがいいかもしれない。

 新車が来ると気分も新たなものになる。事故だけには気をつけて安全運転を心がけたい。僕はスピードを出してしまうほうなので父親にも注意された。気をつけねば。

 あっという間に一日が終わってしまった。今年も残り二日だ。来年はいい年になりますように。

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