小説 介護士・柴田涼の日常 156 味噌汁の日、大幅な人事異動

 今日は日勤だ。出勤すると今日は「味噌汁の日」だということがわかった(ユニット内で味噌汁を作ることで味噌汁の香りを楽しむという狙いなのだろうか。いまだにユニットで味噌汁を作る意義がわからない。ご利用者が作るというのならわかるが、作れるご利用者は誰もいない)。キッチンに味噌汁の具材が置いてあったからだ。しかし、味噌汁用のお鍋を返却してしまったようなので、それを早番の平岡さんに伝えると「取ってきます」と言って取って来てくれたが、あいかわらず態度はそっけない。平岡さんはお風呂に入れる前のバイタル測定も間違えていて、お風呂に入らないご利用者のバイタルを測っていた。疲れているのかと思う。

 お風呂に入れるご利用者のトイレ誘導を済ませ、清拭を濡らしてハットリさんやウチカワさん、ヤスダさんに巻いていってもらう。その間に味噌汁を作ろうとしたら、IHのクッキングヒーターが何度スイッチを入れても点かない。事務所の中島さんに連絡して見てもらうと修理に来てもらわないといけないとのことだった。仕方なく、隣のFユニットのものを借りて味噌汁を作ることにする。沸騰してからだしの素を入れ、味噌を溶いてゆく。少し水の量が多かったので、味噌を溶いては味を見て、溶いては味を見るということを何度か繰り返した。適度な味付けになったので一応完成だ。

 こういうときの対処法は海野さんから聞いた。平岡さんに聞くとストレスになるので、海野さんに頼った。海野さんによると、新しい職場に行った猪俣さんは元気にやっているようだ。若い人が多い職場らしい。

 キッチンには卓上用のクッキングヒーターが応急処置として置かれることになった。Gユニットが持っていたものを借りたようだ。

 お昼から遅番の間宮さんが出勤してくる。間宮さんはキサラギさんが大のお気に入りだ。食事介助をつきっきりで行っていた。僕は一人でヨシダさんとトキタさんとセンリさんの食事介助をしつつ、その他のご利用者の下膳をして薬を飲んでもらい、お盆とコップとお箸類を洗った。

 全員の排泄介助が終わったので休憩に入る。十四時からFユニットのご利用者をひとり機械浴に入れるということで間宮さんが手伝いに出ることになった。また、平岡さんも十四時からリーダー会議があるというので、僕は早めに休憩から帰ってこなければならなくなった。

 お昼ごはんを食べ、少しゆっくりしてから一階の乾燥機で乾かしていた洗濯物を取り出し早めにユニットに戻る。居室にいたハットリさんに声をかけ、洗濯物たたみを手伝ってもらう。タオルやズボンやパジャマはウチカワさんやヤスダさん、サトウさんにお願いし、それ以外のものをハットリさんにたたんでもらう。臥床していたトキタさんを起こし、お茶を配ってトキタさんとヨシダさんには介助を行う。おやつのコーヒーロールケーキが来たので配り、さくさくと介助する。食器を下げ、カップを洗い終えたところで間宮さんが機会浴から帰ってきたが、「着替えてくるわ」と言って下に降りてしまったので、僕一人で排泄介助をはじめる。途中から間宮さんも戻ってきて、ひととおり終えると間宮さんはキサラギさんのおやつ介助に入った。僕はゴミ捨てに行き、十五分間の休憩に入る。

 リーダー会議からなかなか帰ってこなかった平岡さんが十七時過ぎにようやく戻ってきた。大幅な人事異動があったらしい。このユニットには一階のBユニットからサーファーガールの更科さんが来るようだ。二月からとなっているが、なぜ一月から来ないのだろうか。今すぐにでも来てもらいたいのに。はなはだ疑問だ。

 平岡さんは一度歯医者に行ってからまた戻ってくると言っていた。どうやら歯が抜けてしまったらしい。

 夕食の介助は、またしても間宮さんはキサラギさんにつきっきりで、僕は一人でヨシダさん、トキタさん、センリさんの介助をした。ヨシダさんは口の開きが良くなく、少しずつしか食べないので時間がかかった。しかも身体が右に傾いており、その都度身体を起こして食べさせないといけなかったので、とても労力を要した。一度いびきをかいて傾眠したあとは不随意運動が出てきて、それとともに開口もよくなり、食事スピードも上がった。トキタさんはまた飲み込みが悪くなってきて、残渣物が多く見られるようになってしまった。センリさんは介助を伴いつつゆっくりと食べていた。その他のご利用者の下膳と服薬の介助をしながら食事介助をしてゆく。

 この食事介助で疲れてしまったので、就寝前の排泄介助はゆっくり行っていた。

 ヨシダさんが痒くて背中を掻きむしってしまうので、綿の手袋をはめればいいのではと医師から提案があった。間宮さんが持ってきた白い手袋を昨日からはめていたが、夕方からは不随意運動が強くなるので、ギュッと力強く握りしめてしまうヨシダさんの手にはめるのは困難を極める。間宮さんが「はめといて」と言うので試みたが、まったくはめられそうにない。そもそもこの手袋自体が小さい。退勤時間が迫っていたので、「すみません、あとお願いします」と言うと、「ああ、それもういいよ」と返された。僕の努力はいったいなんだったのだろうか。

 不親切で話しかけにくい平岡さんと、座ってばかりいる間宮さんに疲れてしまった。明日は真田さんと早遅対応の日だ。対人ストレスがないのが何よりもありがたい。

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