小説 介護士・柴田涼の日常 147 トキタさんの嘔吐

 翌日は早遅対応の日遅。遅番の時間より二時間早く出勤し、その分が残業となる。安西さんが抜け、四人になってしまったので、お風呂介助の都合上、どうしても残業が必要になってくる。お風呂に入れているときは、フロアを見ている人がいないといけないからだ。

 この日は、ヨシダさんの調子が悪く、前傾が強くて傾眠がちだったため臥床対応していたが、夕食時は一人しかいないので、夕食前に離床してもらいリビングに連れて来たところ、トキタさんがお昼のけんちんうどんを嘔吐してしまっていた。今日から「全粥・極キザミのトロミがけ」を「軟飯・キザミ」の食事形態に変更した矢先の出来事だった。うどんは未消化でかたちがそのまま残っていたので、ほとんど噛まずに飲み込んでいたのだろう。急いでナースを呼ぶと新倉さんと根本さんが来てくれた。熱はないが様子見のため夕食は中止とし水分ゼリーのみとなった。「Dユニットのクリヤマさんも今日食事形態を上げた途端に誤嚥性肺炎で入院しちゃったでしょ。食事形態を上げるのはいいんだけど、難しいね」と新倉さんは言った。パジャマが汚れてしまったのでとりあえず上着だけ着替えることにしたが、僕が色合いが合うものを選んでいると「もう、そんなのどれだっていいから着させちゃいなよ。組み合わせなんて考えなくていいからさ」と根本さんが言った。根本さんは安西さんを支持している人なので、僕に対して敵対心みたいなものを抱いていて当たりがややキツイ。ズボンは寝るときに着替えることにする。

 夕食の準備が終わり食事介助に移ると、ヨシダさんは閉眼し全く口を開けてくれない。仕方ない、ベッド上で食べてもらうことにしようかと思い、居室まで連れて行くと不随意運動が始まり元気になった。「向こうで食べられますか?」と訊いても返事はないが、出来ることならリビングで食べてもらいたかったので、またリビングに連れて行く。しかし、席に着いた途端、不随意運動もぴたっと止まり、目も口も開かなくなってしまったので、もうこれはダメだと思い、ベッドに連れて行き、ナースに食事介助をお願いすることにする。トキタさんの隣のイマイさんは夕食を一割ほど食べたところで「気持ち悪い」と言われ、あとは残されてしまった。どうやら嘔吐の瞬間を隣で目の当たりにしていたため吐き気が伝染してしまったらしい。臥床時には吐き気は治まっていた。一人のときに限っていろいろと起こる。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?