小説 介護士・柴田涼の日常 159 施設全体の節電対策、キサラギさんの膀胱留置カテーテル抜去

 翌日は日勤。ゲームを遅くまでやっていたので眠たい。頭が働かないまま出勤すると、早番の真田さんが「ヨシダさんまで手が届かなくて、いま、この人もやっと起きたとこ」とキッチン横につけたオーバーテーブルで遅めの朝食を食べているセンリさんを指して言った。

 僕はお風呂係だったので、バイタル測定をしてからヨシダさんの朝食介助に入ろうと思っていた。測定が終わってさあヨシダさんの食事介助に行こうと思ったら、朝食の廃棄時間を過ぎてしまっていた。朝食提供から二時間を経過したら廃棄しないといけない決まりになっている。ヨシダさんの朝食は未摂取となってしまった。僕の判断ミスだ。

 ヨシダさんは覚醒状態が悪く、昼も夜もベッド上で介助した。お昼は全量食べられたが、夜は半分ほどで「もういっぱい」と言われてしまった。ますます足も細り、頬もこけてきた。

 リーダーの平岡さんから、今後洗濯物はなるべく一階の乾燥機で回すようにとの指示があった。今般の電気代の高騰により、施設全体で節電に取り組むようだ。お風呂のときに出た洗濯物は、午前に出たものは下の乾燥機を使っているが、午後に出たものはユニットの乾燥機を使ってしまっている。下の業務用の大きな乾燥機は一台しかなく、ユニットごとの洗濯かごの行列ができていて、乾いた洗濯物が返ってくるのは翌日になってしまう。それを嫌ってユニットの乾燥機を使っているが、今後はそれが出来なくなる。あとは、就寝介助後に、靴下やタオルを洗うが、それもユニットの乾燥機を使わず、下の乾燥機を使うようにとのことだった。毎食後に出るおしぼりタオルは、それだけならユニットの乾燥機を使ってもいいのでは、と平岡さんは言った。僕はそれももったいないなと思うが、ぜんぶのユニットがおしぼりタオルだけを下の乾燥機で回すとなると、今度は洗濯物がいつまで経っても戻ってこなくなってしまう。むずかしいものだ。

「間宮さんはキレるでしょうね」と真田さんは言っていた。間宮さんは効率重視で、そういう面倒な取り組みは嫌いなほうだ。でも、それは電気代を負担していないからで、ユニットの乾燥機を使ってもいいけどその分の電気代は支払ってね、と言われたら、誰もがユニットの乾燥機は使わなくなるだろう。

 翌日は遅番。早番の真田さんとの早遅対応だ。またしても遅くまでゲームをしていたので眠たいが、これが終われば明日はお休みなので、それを支えにがんばる。

 最近退院したキサラギさんが午前に膀胱留置カテーテルを抜去したが、夕方になってもなかなか排尿が見られないため、再度管を入れるかどうかの瀬戸際というところまで来たとき、かろうじて少量の排尿がトイレで見られた。これを見てナースの佐々木さんは「よかった。じゃあ、大丈夫そうだね」と安堵した。キサラギさんは日中は尿を溜める傾向にある人なので、僕は大丈夫だと思っていた。

 まだそれほど体力が戻ってきていないキサラギさんは、毎食後、疲れてしまい臥床対応を取っていたが、夕食後は「まだ寝ない」と言ったので、ショートスリーパーのサトウさんと一緒に時代劇を見て過ごしていただくことにした。二十時頃になると「おしっこがしたい」との訴えがあったので、トイレに連れて行ってもよかったが、いちおう尿測の指示が出ていたので(ナースの池田さんは、出たか出ないかだけでもいいですよ、と言っていたが)、ベッド上でパッド交換を行うことにした。パッドに出た尿をはかりで計測するというやり方だ。キサラギさんはズボンの紐を固く結んでしまっていたので、ベッド上に横になった状態で固結びをほどいているうちに排尿を済ませてもらう。リハパンを下ろすとたっぷり尿が出ていた。しかし、仰臥位のままパッドを引き抜いたのがよくなかった。キサラギさんはパッドを引き抜いたときにまた尿が出てしまい、ラバーを貫通し、シーツまで尿汚染してしまった。仕方ないので、新しいパッドを当ててからまた起きてもらい、リネン交換をすることにする。ちょうど、キサラギさんのベッドは今週はまだリネン交換をしていなかった。枕カバーと掛け布団の包布も交換する。「お待たせしました。疲れましたでしょう」と声かけし、キサラギさんを臥床させる。「どうもありがとう」と言ってキサラギさんは床に就いた。尿測は、パッドだけでなく、シーツやラバーに沁みた分も計測した。尿汚染していたものとしていないものとの差を測り、パッドの分に足した。

 キサラギさんは食事のときの飲み込みもだんだん良くなってきた。元気になる姿を見るのはとても嬉しい。

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