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尾形亀之助『カステーラのような明るい夜』

この秋、尾形亀之助詩集『カステーラのような明るい夜』を発行いたします。

編集は西尾勝彦さん。

装画を、版画家でイラストレーターの保光敏将さんがお寄せくださり、装幀をクラフト・エヴィング商會さんがご担当くださいました。

本当だったら2020年の5月に発行の予定だった本作。

コロナ禍によって延期となり、それがゆえにじっくりと時間をかけて制作にあたることができました。

お手にとってご覧いただけましたらとても嬉しいです。



『カステーラのような明るい夜』が生まれるまでの話(長文です・お時間ある方でよろしかったら)


「亀之助の新詩集を読んでみたい。西尾さんの編集で。」


そんな風に思うまでには、まず、西尾さんとのやりとりがありました。


「どうやら亀之助は世田谷に住んでいたことがあるようですね」

メールのやりとりをしている中でそう教えてもらい、さっそく地名を調べてみると、「太子堂」「山崎」「駒沢」といった、馴染み深い地名が目に飛びこんできました。

山崎というのは今の梅丘という土地で、梅丘は七月堂が創業したところでもあったのです。

亀之助もこの辺りを散歩したのだろうか。

街歩きや買い物の途中、そんな思いがついあたまをめぐります。そして、あらためてパラパラと亀之助の詩集を繰って、今なお目の前に鮮やかな情景と想像をくり広げさせてくれるその世界に感動し、「亀之助の新詩集を読みたい。西尾さんの編集で。」という冒頭の思いに至ったのです。


西尾さんに相談すると、ふたつ返事で受けてくださり、ほどなくして原稿が送られてきました。

西尾さんはいつも、とても、仕事が速い。


亀之助の詩集をつくるならば、装画は保光さんにお願いしたい。

何度か手直しをしたゲラを持って、雨の中保光さんの個展へ赴きました。

断られた場合、その先のことは考えていません。そうなったら考えるしかない、というぐらい、保光さんの絵が詩集の表紙にあることを心から望んでいました。


帰り際、実は、とドキドキしながらゲラの束を差し出して検討をお願いしました。

装幀もお願いするつもりでいたところ、普段はイラストや版画のみを担当されているとのこと。いっしょに作っていくならできるかもしれない、ということで、そんな風に考えてくださっただけでも本当にありがたかったし、亀之助の詩、西尾さんの編集、保光さんの版画、すばらしい一冊になると安堵したのを覚えています。

しかし、この本は、きっとずっと販売していきたくなる一冊になる。

そう思い、社内で作るのではなく、装幀を受けてくださるデザイナーさんを探そう、そう思いました。


ダメで元々、当たっても砕けないぞという気持ちで、クラフト・エヴィング商會さんに依頼のメールを送ったところ、なんと、ご快諾くださったのである。

吉田篤弘さんの作品のなかには、「詩」や「詩人」というワードが多数でてきます。

ご自身の作品をテーマにした読書会へ参加した時も、詩について語られていることがあり、世田谷が舞台の作品を書かれていることなどから、かねてより大好きなクラフト・エヴィング商會さんにデザインをしていただけたらと、書いたメールを何度も何度も読み返しては、送信ボタンを押すのに何分もかけてやっとの思いで送ったお願いのメールでした。

受けてくださったことが、今でも夢なのではないかと思うくらいです。


こうして亀之助の新詩集はひとつひとつが大きな一歩となりながら、着実に制作が進んでいったのですが、本の内容についてもうおひとり、大きな柱となってくださった方がおりました。

それが校正を担当してくださった、航星舎の高松正樹さんです。


編集していくにあたって西尾さんからは、旧仮名遣いを新仮名遣いに、というご提案があり、七月堂側も異論なく、新仮名遣いへの直しを高松さんに依頼しました。


高松さんはなんと、すべての詩の原典をあたるために、あちこちの文学館や図書館に赴いてくださり、最後にひとつ残った「暗夜行進」という詩一篇のために、緊急事態宣言が明けた2021年のみじかい春、彦根市立図書館まで足を運んでくださったのです。

そしてそこに、亀之助らしい熟語の使い方を発見して帰ってきてくれました。

少し興奮気味にキラキラした目でコピーを見せてくれた時のことを、きっとずっと忘れません。

「暗夜行進」が掲載されている「門」という雑誌は、他の号と合本され、現在彦根市立図書館が所蔵しています。

彦根市立図書館館長、ならびにご担当者さまには大変お世話になり、あらためて感謝申しあげます。


こうして、『カステーラのような明るい夜』は、ひとつひとつの詩篇について遡って、文言、句読点を照らし合わせ、印刷ミスや誤植の可能性だってゼロではないから、それが著者の本意であるのかどうか確かめようがありませんが、改行の場所や独特な表現を再現することができました。

この詩集にとって、この点が心臓となっていると言っても過言ではありません。


西尾さんの「編者あとがき」にはこうあります。

「この詩集を、未知の読者、未来の人びとに捧げます。」


これまでもそうだったように、これから先の何十年も、あるいはもっと先の未来まで、亀之助の詩が細々と読み継がれていくことを予感しているのでしょう。

版元としても、この本が、末永く、手元に置いておきたくなるような、そんな風にして旅立っていくことを願ってやみません。



本文より抜粋


白い手


うとうと と
眠りに落ちそうな
昼 ―

私のネクタイピンを
そっとぬこうとするのはどなたの手です

どうしたことかすっかり疲れてしまって
首があがらないほどです


レモンの汁を部屋にはじいて下さい




とぎれた夢の前に立ちどまる


月あかりの静かな夜る ―

私は
とぎれた夢の前に立ちどまっている

×

闇は唇のようにひらけ
白い大きな花が私から少し離れて咲いている
私の立っているところは極く小さい島のもり上った土の上らしい

×

私は鉛のように重もたい

×

死んだように静かすぎる

私は
消えてしまいそうな気がする

×

たくさんの ―
烏だ
たくさんのねずみだ

一本の煙突だ

一人の馬鹿者だ

夢がとぎれている





私は椅子に坐っている

足は重くたれて
淋びしくいる

私は こうした私に反抗しない

私はよく晴れた春を窓から見ているのです




『カステーラのような明るい夜』書籍情報

定価  本体 ¥2000+税
本文  154ページ
サイズ 四六判変形
製本  仮フランス装
編集  西尾勝彦
装画  保光敏将
装幀  クラフト・エヴィング商會
校正  航星舎
発行  2021年10月17日
ISBN  978-4-87944-466-0


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