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「月はどっちに出ている」(崔洋一監督)【映画感想文】

「灯り」がとても綺麗な映画だった。

バーの灯りや、レストランの灯り、タクシーのヘッドライトの灯り・・・。
そしてなんといっても東京タワーのオレンジ色の灯りと黄色い月灯りと空の紺色が調和していた。

作品全体を通して、色彩豊かで、その彩りがとても美しかった。

夜と朝のコントラストが鮮やかだった。

夜の灯りのあとの爽やかな朝の光。

人生は見方次第で、例えば背景音楽次第で、喜劇にも悲劇にもなるのかなと思った。

一見、悲劇的なシーンなのに、明るくリズミカルな音楽を背景音楽にしていると悲劇に見えないから不思議だと思った。悲劇に見えることも、少し見方を変えたら喜劇なのかなーと感じた。
例えば、金田タクシーの社長が会社の危機に絶望して会社に火をつけて燃え上がり、更に怖い人たちに殴られるシーンとか。

テンポが良かった。

全体的に喜劇調というか、リズミカルに進行していった。

たぶん差別はみんなしていることだし、どこにでもあるもの

作品には、それぞれ立場が異なる多様な人々が出てくる。
在日韓国人、在日フィリピン人、吃音の方、いわゆるフツーの日本人・・・。

だが、「特定の誰かが差別を受けているから可哀そうだ」という描かれ方はされていないことがポイントだと思う。

誰かに差別を受けている人も、誰かを差別している。
誰かを差別している人も、やっぱり誰かから差別されている。

結局、国籍が何であれ、出身が何であれ、何か特徴をもっていようがいまいが、みんなお互いに差別し合っているんじゃないかなーと感じた。

例えば同じ日本人同士だって、学歴がどうとか、出身が関西だとか関東だとか、政治だって何派とかどうとか、背が高い低いとか、やたらみんな差別していると思う。

みんなしているのだとしたら、そもそも差別ってなんぞやという疑問が湧いてきた。

悲劇的にならずに明るく生きる姿

ただ、差別をシリアスに描くというより、そういう実体がありながらもみんなそれぞれ明るく暮らしているように見えた。社会から疎外されているような感じがしても、シリアスになりすぎずに明るく過ごす生き方もあるのかなと思った。

岸谷五朗の演技に引き込まれる

岸谷五朗さん、声がいい~。
岸谷さんが演じたのが主人公の在日韓国人の姜さん。
姜さんは、自分の名前を揶揄されたり、差別的な態度を取られても、冷めきった態度でやり過ごす。静かにその屈辱を耐える姿がとても印象的だった。

90年代ってなんか味わい深い作品が多いんだよなー

これはこの作品の固有の話ではなくなるが、いつも思うことだが、90年代の作品ってなんかいいクリエイティブが多い気がする。
映画も、音楽も。

例えば北野武監督の映画。「3-4x10月」に始まり、「HANA-BI」や「ソナチネ」「キッズ・リターン」「あの夏、いちばん静かな海。」「菊次郎の夏」はすべて90年代のものだ。

個人的に好きだというのもあるが、90年代がいいクリエイティブ作品が多いのは何か理由がある気がする・・・。画になる風景なのかもしれない。なんか、タバコの自販機とか、缶ジュースのデザインとか、クルマのデザインとか・・・どれもまだ昭和っぽさが残りながらも、現代の大量消費社会っぽさも入っているというか・・・。

それらによって90年代の日本はどこをとっても「イイ画」になる気がする。これはまた別記事で考えてみたい。

おわりに

映画の本質の一つは「画」なのかもしれない。
黒澤明監督は映画のことを写真と呼んだりする。

それに黒澤明監督は画家志望だったし、溝口健二監督も絵が好きだったらしいし、北野武監督も絵を自分でも描くほど絵が得意だ。

映画って画と近しい領域なのかもしれない。
今度そのことについても考えてみたいなー。



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