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【ハーブ天然ものがたり】ほおずき


渇きレスキューハーブ


ほおずきは世界じゅうでおよそ100種が確認されているナス科ホオズキ属の植物で、そのうち約半分はメキシコの固有種です。

ほおずきの学術的な整理はいまなお活発におこなわれているようで、日本で一般的に見られる、あかく色づく日本原産種のほおずき(鬼灯、鬼燈)は変種と分類され、ジャパニーズ・ランタンの別名をもちます。

あかいほおずきは現代では観賞用として定着しましたが、第二次世界大戦の前には、東京でほおずきを青物類と分類して青果市場販売していたといいます。

ホオズキ (Alkekengi officinarum var. franchetii) は日本の北海道、本州、四国などを原産地とする一年草または多年草である。

第二次世界大戦前、東京ではホオズキを青物類として青果市場で売りさばかれていたが、1941年、ホオズキに公定価格が設定された際に警視庁経済保安課は花卉類として整理した経緯がある。
一般的に栽培されているホオズキには毒性があり、食用にしてはならない。特に妊娠中の女性の摂取は子宮収縮作用で流産となるため禁物である。

ウィキペディア-ホオズキ


南アメリカ原産種で江戸時代に日本にはいって帰化した せんなりほおずき は、緑色の野生ほおずきとしてなじみ深いと思います。

ウィキペディア-ホオズキ
Physalis angulata
グランドチェリー(せんなりほおずき)


1990年代から、日本でも食用ほおずき(果実が黄色で実をつつむガクはクリーム色をしています)の栽培がさかんになりました。
ネット検索すると食用ほおずきの栽培にちからをいれている市町村もお見受けします。

ウィキペディア-ブドウホオズキ
熟した萼と実

こどものころほおずきの実をもんで、やわらかくなった中身をちいさな穴からすべて出し、口のなかでほおずきの皮に空気をいれたり出したりする遊びがありました。

実母は一般的にでまわっているほおずき(鬼灯)を生食する人だったので、わたしも母の真似をして食べた記憶があります。(おすすめしてませんょ)
苦くてすっぱくて、のってりと口のなかにひろがる大人の味に「こどもの舌にはちょっと早いんでないかい」などと、なまいきな感想をのべたことをおぼえています。

現代常識として拡散されている情報では、日本の原産種である鬼灯は観賞用である!なぜならおいしくないし、アルカロイドを含んでいるので毒性がある、と定義されています。

アルカロイドはモルヒネやニコチン、カフェインなどを代表とする成分の総称です。
500種以上の植物性成分がアルカロイドに分類され(発見され)、なかには肝障害をおこすほど毒性がつよいものもあります。

毒をもつことで植物は安易に捕食されないよう工夫しています。
毒をもつことは長い歴史のどこかで、捕食対象だったことのあかしなのかもしれないな、と考えることがあります。

ナス科の植物にはなす、とまと、唐辛子、ピーマン、じゃがいもなどの有用野菜などありますが、そのほか微弱なものから強力なものまで、アルカロイドをもつ植物はたくさんあります。

たばこ、ペチュニアなどの嗜好品や園芸品。
クコ属、マンドラゴラ属、ベラドンナ属もナス科のなかまです。

植物が身のうちにやどすアルカロイド(をはじめとするほかの成分も含めて)は、多様なはたらきによってヒトの生理機能に作用します。
アルカロイドはモルヒネなどの薬になり、風味のよい香辛料にもなりますが、ほかの成分に比べると刺激がつよく、生死にかかわるものから精神に作用するものまで、いわゆる毒性があります。

ヒトにとっての毒とは、体内で分解するのに時間がかかったり、分解できないことで組織を変容させたり壊したりすること。
あるいは神経系に作用して合意的現実社会の枠をはみでてしまうことも、毒物による幻覚作用、などと分類されます。

食用とされる作物は品種改良によってアルカロイドがとりのぞかれますが、可食品であっても、じゃがいもの芽や茎、未熟なトマトのようにアルカロイドを含んでいるものもあります。

世界で生食されている食用ほおずき種は、トマトと一緒で品種改良されながら、酸味のあるもの、甘いもの、風味豊かなものへとさまざまに広がりつつあります。
お国によってホオズキ、グランドチェリー、ハスクトマト、ハスクチェリー、 ポハベリー、ゴールデンベリーなど、呼び名もたくさんあります。

食用ほおづきはカロチノイドが多く、トマトのように活用でき、サラダなど生食以外にもデザートや、ジャム、パイのつめもの、ドライ食品も市販されています。

近所のジュピターで購入しています
ドライフルーツ(ゴールデンベリー)
ペルー産

夏の暑いときに口内が乾いて
「水を飲んでも渇きがおさまらない」ときのレスキュー食品。
レスキューの基本ははちみつレモンですが
ほおずきはレモンが手に入らないときの代用品に。
鉢で育てているサイパンレモン収穫できました。
はちみつ漬けにして、ほおずき(ゴールデンベリー)とおなじく
渇き対策のレスキュー食品に。


マウイ島のひなびたスーパーで、ポハベリーとかかれたジャムが売ってあるのを見つけたことがあります。
オアフ島ではみつけられなかったので即購入しました。
ほおずきはハワイ語でポハと呼ばれ、ハワイ島で栽培されているものをつかっていると店員さんがいっていました。

スーパーの帰り道、タクシーの運転手さん(かなりの爺さま)が、
「自分はアメリカでブイブイ仕事していたが、リタイアしてハワイに住んでるんだぜ、なに買ってきたんだい?ポハジャムかい、そりゃいい買いものしたね。ポハベリーはハワイの伝統的なデザートなんだぜ。めずらしくて買ったのかい?日本にはないのかい?なんだってぃ?ながめるだけぇ?食えないもんだって?そんなこたねぇだろ。

なに?夏の?クールな感情?(凉の情緒を説明しようとした)
ウィンドチャイムで?クールになる?(風鈴のことを説明した)
・・・エクソシスト?(邪気祓いを説明した)
Hory shi…」

マウイの爺さまが拙いわたしの英語力によって、日本にどのような感想をおもちになってしまったのか、、、じくじたる思い出のひとつですw


しゃくを切るほおずき


食用ほおずきは栄養価がたかい食品として認知度があがってきましたが、生薬として活用されているのは観賞用の ほおずき の方です。

生薬名は酸漿さんしょう、茎や根を乾燥させたものは咳止めや去痰剤、解熱剤になります。
子宮の緊縮作用があるので、妊娠中は禁忌とされています。
平安時代には鎮静剤として、江戸時代には堕胎剤として利用されていたそうです。

浅草の「ほおずき市」は有名ですが、もとは東京港区の愛宕神社がほおずき市のはじまりだった説があります。

「ほおずきを水で鵜呑みにすると、大人はしゃくを切り、子供は虫の気を去る」と伝えられており、ここでいうほおずきは、せんなりほおずきだった説もあります。

江戸時代後期の浮世絵師であり、戯作者の山東京伝(1761-1816年)が記した「蜘蛛の糸巻き」にある一説をウィキから引用します。

芝 (東京都港区)・青松寺の門前の武家屋敷に奉公する使用人が、愛宕権現の霊夢をみた。
その翌朝、庭でひとかぶのせんなりほおずきをみつけて、「6月24日の功徳日に青ほおずきの実を愛宕の神前で鵜呑みにすれば、大人はしゃくの種(腹の立つ原因)を切り、こどもは虫の気を封ずる」というお告げを受けた。
そのはなしを周囲の人々に吹聴したところ、不思議と効能があり、いつしか「御夢想の虫薬」と称して、青ほおずきの市が境内に立つようになった。

ウィキペディア-山東京伝
山東京伝像

南アメリカ原産種のせんなりほおずきは江戸時代に日本に入ってきたとされていますから、「御夢想の虫薬」物語は、もしかすると一種のプロモーションだったのかもしれません。

しゃく(腹の立つ虫)をきる効能があるかどうかはさておき、ほおずきはいつのころからか鬼灯の字をあてられるようになりました。

ほおずきは古事記をはじめとしてたくさんの文献に登場し、古名は、赤加賀智あかがち輝血かがち赤輝血あかかがちです。
古事記で「赤加賀智(ほおずき)のように赤い目」と表現されたのは八岐大蛇やまたのおろち
かがちは蛇の異名でもありますね。

古名の語尾に「ち」がつくものについて、精霊はチ「血液」に降りてくるという所感を過去記事、【ハーブ天然ものがたり】ラベンダー に綴りました。

日本には古くからアニミズム信仰が浸透し、トイレにも押し入れにも神様はいて、さらには石つぶてやタオルにも、スリッパにさえ「神様が宿る説」をうたがう日本人は稀と思います。

生物も無生物にも精霊は宿っている。
だから人はもちろんお道具や履物にも、きちんと礼節をしめすお作法が日本の~~どうを築いてきたんだろうなぁ、と。

古代日本では精霊に満たされているさまを「~~チ」と表現し、語尾につけたという説があります。
火の精 カグツチ・軻遇突智
岩の精 イワツチ・磐土
木の精 ククノチ・久久能智
葉の精 ハツチ・葉槌
水の精 ミツチ・水虬
野の精 ノツチ・野椎
潮の精 シオツチ・塩椎

精霊が自然現象やいきものとしてあらわれた場合も、同じように
イカヅチ・雷
オロチ・蛇 と呼び、

精霊は人や、人のつくった人工物にも宿って、その力をしめすと考えたので
タチ・刀
などの言葉が生まれたとも。

精霊の力が満ちるのは、血液の「血」に関係すると信じられていたことから「~~チ」と呼んだそうですが、古名輝血かがち赤輝血あかかがちと命名されたほおずきは、精霊の力をたっぷり宿して顕現している、レアな植物であるということを古人の感性は見抜いていたのかもしれません。


マクロすぎる存在感


「鬼灯」はお盆のころ、ほおずきを迎え火の提灯ちょうちんにみたてて盆棚にかざる風習からその字がついたといわれますが、ほおずきを盆棚に供する習わしはいつごろはじまったものなのでしょうか。

柳田国男の著書に「ほおずきが国産なのは確かだろうけれど盆の供物として精霊に供えられた歴史はない」的に書かれていた記憶があります。(図書館通いしながら読んでいた柳田国男全集のどこか、、、うろおぼえです;)

「寺以外の庭には植えぬ鳳仙花同様の神秘な植物とする」
「成長した苞の中にその実がすっぽりこもっているものゆえ、物忌み籠りによって清浄となり、その神秘力・呪力を充実させる」
『日本民俗語大辞典』(石上堅著 桜楓社 1983)

「ホオズキはその形状から、キキョウの花と同様に霊が宿りやすいと考えられ、七夕や盆には庭先や仏壇に飾られる。」
『日本民俗大辞典 下』(福田アジオ〔ほか〕編 吉川弘文館 2000)

国立国会図書館 レファレンス協同データベース-仏壇の盆飾りについて
桔梗


植物のうつほ、空洞部分には たま(精霊)が宿るという説は、日本民俗学の基礎を築かれた二大巨頭、折口信夫柳田国男がのこしてくれた、たくさんの著書のなかに、通奏低音のように横たわっている思想だと感じます。

過去記事、桃や松のものがたりに、引用させていただいた文献へのリンクと、その所感を綴っています。

果実の中心に大きな核のある桃、その内側に種子が入っていますが、種のまわりの空間は竹の中空とおなじように神の鎮座する場所と考えられていました。

72候【花鳥風月】啓蟄の候

依り代となる植物は神霊が宿るためのいれもの、という発想は、日本らしい自然崇拝の念から生み出されたように思います。
門松につかわれる竹もそうですし、なかが空洞の植物ほどのりこみやすいということわりもあるのではないかと。
松をはじめとする針葉樹は、広葉樹にくらべると細胞が少なく、心材の構造もシンプルで隙間があるといいます。
茎や心材に空洞をもつ植物たちは皆うつほ舟で、「たま」を迎えいれる胞衣としてのお役目を担っているのかもしれません。

【ハーブ天然ものがたり】パイン/松


ほおずきのガクのふくらみは、精霊のための胞衣えななのだとしたら、そのなかにつつまれて成熟してゆく、まるい果実にはどれほどの御力がやどるのだろう、と想像するとドキドキします。

日本名のほおずきは、
ふっくらした「頬」をイメージしてつけられた説、
赤い実から「ほほ」は「火々」、「つき」は染まる、からつけられた説、
果実の皮をならしてあそぶようすから「頬突き」と呼ばれた説などがあります。

江戸時代の本草学者、貝原益軒(1630ー1714年)は

女児其なかごをさりて、好んで口中にふくみ鳴らす。
或るいはふきあげて、たわむれんとす。

と、少女が頬をつきだしてほおずきを鳴らしているようすを書きのこしました。
本草書の「大和本草」には、ホオという臭虫が好んで葉を食べるからほおずきと命名された説を記しています。

古い時代からこどもに親しまれ、遊び道具として身近な植物だったほおずきは、そのいっぽうで「鬼灯」とも表記され、さらには炎や血液のように輝く赤い色が八岐大蛇の目を表現するのにつかわれたという、かなり広範な象徴植物だなぁと思います。

まさに老若男女、世代も時代もとびこえて、さらには次元もとびこえて、ヒトもたま(精霊)も原初神である八岐大蛇にも通じる、マクロすぎる存在感。

ほおずきファミリーの起源はおよそ3,000万年前であると推定されており、約52,000年まえの化石化されたほおずきがアルゼンチンから出土されています。
学名 Physalis infinemundi サイサリス インフィネムンディと名づけられ、極南に生育していたということで種小名は「地の果て」を意味する「in Fine mundi」に由来しています。

ウィキペディア-ホオズキ
ホオズキの化石

3000万年前
2色型色覚(赤緑色盲)に退化した哺乳類のうち霊長目狭鼻下目が3色型色覚を再獲得した。
ビタミンCを豊富に含む色鮮やかな果実等の獲得と生存に有利だった。

ウィキペディア-地球史年表


古参ハーブのなかでもとりわけ、そのカタチや色合いに異色・異能ぶりが冴えるほおずきは、もしかするとほんとうに八岐大蛇のめんたまから生まれた、異彩ハーブなのかもしれません。

「日本書紀」
頭と尾はそれぞれ八つずつあり、眼は赤い鬼灯のようであった。
松や柏が背中に生えていて、八つの丘、八つの谷の間に延びていた。

ウィキペディア-ヤマタノオロチ

八岐大蛇の分御霊をさずかって地に根づき、精霊の依り代となるようガクに工夫をこらして空洞をつくり、八岐大蛇のスピリタスが地球に降臨できるようにと、きざはしになったほおずきは、いってみれば原初神直属の提灯ちょうちんもち。

「ほおずきを水で鵜呑みにすると、大人はしゃくを切り、子供は虫の気を去る」

かみ砕かずに鵜吞みにすることで、赤く輝く眼光は腹のなかで有形無形の蟲たちを睥睨し、しゃくだろうとかんの虫だろうとたちどころに退治してしまう。
鬼灯ほおずきにはきっとそんな御力があるのだろうと、古人は信じていたのかもしれません。

☆☆☆

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