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心をととのえよう。延暦寺で座禅体験してきました!

静寂の中で、ロウソクの灯りだけが揺れている。 いま、誰かが廊下を歩いていったような、 いま鳥のさえずりが聞こえたような、いま……いま。

無音の空間で坐禅をするいま、聴覚が研ぎ澄まされていく。

なぜなんだろう?でも、なぜ?なぜ?なぜって何を、そうだ。 考えることを止めなければ。ああ、でも、この坐禅が終わったあとにメッセージへの返信を……。いやいや、考えちゃダメだ。いまは、いま、いま……。

この記事は2020年に公開したものを再編集してお届けしています

Webメディアしがトコ

考えないから「今」が見えてくる

比叡山延暦寺の坐禅を体験してみようと思い立ったのは、こんな感じで、 次から次へと、大なり小なりぼんやりなりと、 気づけば「考えること」ばかりして、すこし疲れてしまったからでした。

みなさんは、どうでしょう。そんなことありませんか?

メッセージの既読に一喜一憂してみたり、わけもなくスマホを覗き込んでは画面をスクロールし続けて、気づけば背筋も猫背気味に。

心は忙しく揺れ動き続け、頭には答えのない悩みや葛藤がふわふわと漂っている。

そんな浮き沈みする心を止めて、自分自身を見つめなおす瞑想時間。 比叡山延暦寺で1200年続く「坐禅止観」は 身(姿勢)・息(呼吸)・心の3つを調える修行法です。

正しい姿勢で、身体の余分な力を抜き、手は卵型に。これを定印(じょういん)と言います。 大切なのは、自分の呼吸に集中することで、息を吐いて吸う。これを1回として、 呼吸の数をかぞえながら瞑想します。と言ってもこれが難しく、 ついついほかのことを考えてしまうと途端に呼吸の数が……。

「わからなくなってしまったらまた一から順に数えてください」という 説明を受けながらも、何度も何度も一からのくりかえしで、 かぞえるのを諦めてしまいそうになります。

瞑想をはじめて10分ぐらいでしょうか。 目を薄く開けた状態で、やや伏し目がちに前方を見つめていると、 視界は狭くなりながらも聴覚だけは冴えているような不思議な感覚に。

例えるならトンネルの小さな穴から外の光をのぞいて、 そこに座る自分をじっと観察しているような。

心は短調に、平坦に。大袈裟に驚くでもなく感動するでもなく。 心に振り回されずにただただ、平坦な今に座っている。

誰かの投稿を目にしては隣の芝生を青く感じて焦ってみたり、 テレビのニュースで聞いた出来事に驚いたり悲しんだり。

自分とは関係のないことだと知りながらも、日常の中でいかに心を浮き沈みさせて、 休むことなく使っているのか。動きすぎる心を止め、考えることを止めると、 脳も心もゆるゆると柔らかくなっていく心地よさがありました。

目覚めていながら、夢でも見ているようなフワフワとした時間。 なんとも言えないまどろみの中に漂っていると

目の前に人の気配。同時に、はっと「ここ」に連れ戻されるような、 我に返るとはこのことかと思いながらも、緩んだ背筋に意識を向けます。

深く一礼したあとに両腕を抱え込むように前傾姿勢をとると、 禅杖と呼ばれる棒で、背中を軽くトントンと叩かれます。

坐禅と聞くと、長い棒でピシャリと痛そうなイメージがあるものの、 実際は、背中の緊張や身体の凝りをほぐす役割として この禅杖が使われていました。

瞑想の入り口は、坐禅体験から

坐禅体験ができるのは、比叡山延暦寺内にある 宿泊施設も備えた「延暦寺会館」。 ここでは坐禅体験のほかに写経も体験できます。

坐禅会場は160畳の大広間! 最大収容人数200名の広々とした会場なので、 リラックスした雰囲気の中で、 坐禅に集中することができる環境です。

日常の中で坐禅の時間を作りたいと思いつつも、 ロウソクが灯る静寂な空間を自宅で再現するのも難しい。 だからと言って、閉め切った部屋で籠もるにも見慣れた家具や本棚や 旅先で手に入れた雑貨や置物に囲まれて……。 日常が瞑想の時間にまで入り込んできてしまう。

それなら「坐禅環境」が調った体験に参加するのが一番の近道。 延暦寺会館で行われている坐禅体験は、住職の説明も含めて合計60分。 そのうち、坐禅自体は20分ほどでしたが、あっという間にも感じる時間でした。

何も考えずに、ただ息を吐いて吸って、呼吸をする。

心を調えるにも環境とちょっとした技術が必要で。 心を野放しにしつつも、時々は、坐禅という技術の型にハマって、 忙しく浮き沈みする心を、平坦に調えることも大切なのではないでしょうか。

自宅にいても学校でも、移動中でも職場にいても。 どこにいても、気軽に情報を得ることがきる今は、 いつでも心が浮き沈みしやすい環境とも言えます。

だからこそ、坐禅のようにちょっとした息抜きの技術を知っておくことも大事。

そんなことを感じた坐禅体験の後、延暦寺の住職である星野さんに 「心を調えること」について、あれこれとお話をお聞きしました。 その様子は、記事の後編で公開予定です。ぜひお楽しみに!

(写真:若林美智子 文:亀口美穂)

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