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[こぼれ話1]なんで藤森先生が東京ガスで連載を?!


東京ガス LIVE ENERGY表紙

最初の投稿でも書いたように、藤森先生の「現代建築考」は、東京ガスの都市エネルギー事業部の建築情報誌で連載をしていました。
都市エネルギー事業部というのは、都市のビジネス分野のガス機器、都市ガス導入の営業を担当する部署です。
そんな部署でなぜ建築情報誌『LIVE ENERGY』(ライブエナージ)を制作していたのか?
最初にそこから書かせてください。

LIVE ENERGYは、1981年に創刊された本でした。
創刊の目的は、今では信じられないかもしれませんが、ガス会社である東京ガスが、建築分野の人々と接点を持つため、だったと聞いています。
つまり当時は、建築業界とそれほど濃厚濃密なコミュニケーションがなかったということなんだと思います。

家庭分野は、家が建てば自然にガスコンロ。
お風呂もガス。
エネルギーの自由化前の時代は、東京ガスの管内でガス機器が設置されれば、自然と東京ガスの都市ガスが使われることになります。
きっとそんな時代だったのが、空調分野でもガス機器が登場(GHPの登場は1985年)して、電気のエアコン、灯油のストーブなどのシェアをガスに切り替えてもらうような営業が始まった頃だったのかな?と想像します。

そこから、ちょっと説明を大幅に省略して書きますが、白羽の矢が立ったのが当社の先代。
「建築知識」の副編集長を務めていた人物でした。

この冊子に、建築界の著名人や大物実務者を登場させる。
それだけで、取材依頼や取材そのもの、原稿チェックのお願いなどなど、建築家や建築設備家と接点が持てます。
そんな冊子のコンペの枠組みを提供し、自らもコンペに参加して東京ガスの建築情報誌を作り上げたわけです。

そして胎動の時期を経て、読者としての建築分野の人々をもっともっと強く意識するようになっていきます。
71号(2002)で企画を全面刷新することになった時に、建築批評のコーナーを企画しようということになり、藤森先生にご依頼をしました。

先生は、企画主旨にご理解を示してくださり、『連載なら』ということでご快諾。
当時は東大生研の教授で、建築史家から建築家へ軸足を移し始めた頃だったでしょうか。
たんぽぽハウス(1995)、秋野不矩美術館(1998)、茶室シリーズなどなど、話題の作品を次々と発表されていた頃で、ご依頼を受けていただけたのは本当に嬉しいことでした。

さて、皆さんはSumika Project(2008)を覚えているでしょうか?
栃木県にある東京ガスの土地に、有名建築家が住宅をつくって販売するというプロジェクトです。
そのうちの1軒を藤森先生が担当したのですが、その家には暖炉がありました。
茶室もそうですが、建築の中に火があるということは、建築史家でもある先生のこだわりだったのではないかと勝手に推測します。

火が好き。

だから、火を扱う東京ガスの本はOKだった…。
あくまで都合のいい推理です。
もしかしたら電力会社の広報誌等でも執筆したことがあったかもしれませんが、確認できてませんので、あながち、、、なんて思ったりもします(笑)。

今回発売された『藤森照信の現代建築考』でも、暖炉の話はよく出てきます。
そこで暖炉や火がどんなふうに語られているか。
ぜひお手に取って確かめていただければと思います。



「藤森照信の現代建築考」表紙

藤森照信の現代建築考

文=藤森照信、撮影=下村純一 出版=鹿島出版会
2,600円(+税10%)
ISBN:9784306047013 体裁:A5・208頁 刊行:2023年8月

日本のプレ・モダニズムからモダニズムへの流れを、ライトから丹下健三、そして現代の第一線で活躍する建築家たちの作品を通して概観する。
明治初期に開拓した日本の建築という新しい領域にモダニズムが如何にして浸透してきたのか。日本の建築界は近代という激変の時代に、コルビュジエやバウハウスの影響を受けながらも対応してきた。時代を代表する建築家たちの45作品を通してその特質を考察する。

目次

まえがき:藤森照信

Group 1 モダニズムに共通する住まいの原型をつくり続けた建築家たち
ウィリアム・メレル・ヴォーリズ、フランク・ロイド・ライト、アントニン・レーモンド

Group 2 戦後の日本建築界をおおいに豊かにした建築家たち
本野精吾、村野藤吾、堀口捨己、今井兼次、白井晟一

Group 3 造形力、力動性と民族性、記念碑性を接合させたコルビュジエ派の建築家たち
前川國男、谷口吉郎、吉村順三、奥村昭雄、内田祥哉、丹下健三、片岡献、松村正恒、池辺陽、ジョージ・ナカシマ、吉阪隆正、浅田孝、ほか

Group 4 戦後モダニズムにおけるバウハウス派とコルビュジエ派の建築家たち
大高正人、菊竹清則、磯崎新、黒川紀章、仙田満、山崎泰孝、象設計集団、伊東豊雄、内藤廣、高松伸、藤森照信、ほか

取材後記 ─ あとがきにかえて:下村純一


ご購入はこちらから

https://kajima-publishing.co.jp/books/architecture/v2t7-5ee3c/


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