見出し画像

講演会レポート あいち子育て支援フォーラム 汐見稔幸氏による講演

汐見稔幸氏による基調講演「地域の子育て支援と連携」

汐見稔幸氏
専門は教育学、教育人間学、保育学、育児学。自身も3人の子どもの育児を経験。保育者による本音の交流雑誌『エデュカーレ』編集長。持続可能性をキーワ ードとする保育者のための学びの場「ぐうたら村」村長。一般社団法人家族・保育デザイン研究所の代表理事。NHK E-テレ「すくすく子育て」など出演。

また、ホームスタートジャパンの顧問も務めている。
ホームスタートはイギリス発祥。ちなみにブックスタートも同様。
ロンドンでは幼稚園がなかったため、互助組織としてホームスタートが発展。また、地域で子どもを育てるという意識が強い。 

ホームスタートというのは、手助けを求めている赤ちゃんや子どもがいる家庭に、ビジターと呼ばれるボランティアが訪問する無料サービス。
(ご興味がある方は是非下記リンク先をご訪問ください。)

日本は、なぜ、子どもを産まなくなったのかを本気で調査しているのだろうか?出生率はなぜ低下したのか?

1960年代は、地域の道路で子どもが放牧され、子ども自身が自分で考えたあそびで自由にあそんでいた。
豊かな遊びの中で、社会性、コミュニケーション能力、自ら考える力など、非認知能力を育ててきた。

「ふるさと子供グラフティ」原賀隆一著

失敗を通して学ぶこともある。学力=仕事力ではない。
 大人の介入は殆どない。
地域に助けられ、地域の教育力に依存していた。日々の暮らしを支え合う、地縁、血縁の関係があった。人類史上1人での子育てはしてこなかった。・・・現代の子育ての過酷さよ。
 

なんと、江戸時代は、父親が子育てをしていた!

「江戸の親子」中公新書 太田素子著

父親は野良仕事を3、4時間程度で家に戻るが、母親は便利な道具がないため家事にに忙しい。その間に、父親が子どもの様子を見たり、外に連れ出したりして遊んでいた。
 
明治時代に入り、中央と地方という考え方を元に中央集権国家体勢が進む。江戸時代は、各藩がひとつの国として成り立っていた。
しかし、今の日本は、中央に全てが集まりすぎて、地方の産業が発展していない。
中央に通勤していくシステム・・・・失われていくものに無自覚。
給与は男性の方が高いため、外に長時間働きに出るのは男性となる。→世界で4番目の男女の賃金差異。→家庭の崩壊に・・・。
 
1970年代、道路が整備され、住宅地にも車が入ってくる。
交通標語「飛び出すな、は急に止まれない」
本来は「~こどもは急に止まれない」として、大人側が子どもに配慮するべきなのでは?

子どもが自由に遊べなくなってきた1980年代には学校が荒れ始める。現代でも、長野県で児童公園を閉鎖するという話題も。
 
なぜ、当事者に意見を聴かず、大人の都合ですべてを決めてしまうのか。当事者主権という考え方の重要性
 
子どもの精神的満足度37か国中37位の日本。
1994年にエンゼルプランができてから子育て支援という考え方が。

文化と文明の違い

文化 Culture・・・耕す、という意味。みのりを豊かにすること、手間暇かけて価値のあるものを創り出すこと。
 
文明 Civilization・・・簡易的、簡便化
人間が手抜きをするために発展したもの。
夏目漱石・・・・ものぐさ精神を物化したものと称した。
 
育児は、文化行為。手間暇かけて価値のあるものを創り出す。
それなのに、競い合うように作り上げた文明の利器を使うこと、中毒性のあるものなどを使うことは、育児には馴染まない。
文化と文明のバランスが大事。

現代の親たちのニーズと背景

1990年代に生まれた人たちが現代の親世代。
この時代は「いじめ」が露見した時代。
目立たないように、空気を読む世代。本音を気軽に言う関係をつくるまでに時間がかかるが、本音を言い合える関係が欲しいニーズが強い。やりくり力や非認知能力を身につける機会も少なく、なんとかなる!という感覚を手に入れていない、適当がわからない。 
精神的に不安定な保護者が増えている。コロナもあり、うつ状態の女性が増大。子どもも年間500人が自死している。

そんな現代、子育て支援として何ができるのか?

・現代的な縁づくりの場を提供する
・宴づくり、円づくり、艶づくり!
・縁づくりを実践している人たちと有機的につながる。
人と人が交わる、気さくな場所、居場所を作る。
 
実践例
小金井市 森田夫妻主宰 「また明日」
多世代が自由に行き来ができる場所。
・小規模保育園
・認知症の高齢者のデイケア
・地域が自由に出入りできる場所
・・・21世紀型 地域総合福祉拠点!
 

第二部 グループトーク 子育て支援関係者、団体による意見交換

こんな子育て支援があるといいな、自団体での取り組み、ホームスタートに期待することなどを各自で考え、グループで共有。その後全体で共有。

総括 汐見氏
・外国人家庭への支援について
バリ島では、生後30日まで、床に寝かせないという風習がある。外国には子育てにおける様々な慣習がある。外国のことを知ろうとすることが大事である。 
・企業の役目
GDPが上がらず、給料も上がっていない(初任給がここ数十年横ばい)のは、先進国と呼ばれる国では日本のみ。明治時代に台頭した企業がまだ日本で上位に君臨し、比較的若く世界的企業と呼ばれるものは日本には無い。日本は既に先進国でないことを自覚しなくてはいけない。「日本人は日本のことを知らなさすぎる」
企業はいかに生き残れるのかを考える。どんな社会にしたいのかを真剣に考え、社会貢献を考える企業はどのくらいあるのか。
社員の幸せを考えるようになったならば、企業にプラスに動いていくはず。 
・多世代で集う場
ピアカウンセリングという考え方。同じ境遇の当事者同士が支え合う。当事者主権の重要性(再度)。
 例)オランダやデンマークでは、新興住宅地で家づくりをする場合、肝心の外壁などは施工主は施工せず、庭や道路も含め家主自身が施す。そのため、自然と周りの居住者たちのコミュニケーションが活発となり、居住し始める頃には地域全体のコミュニケーションが円滑に行われている状態となる。週末は路上を封鎖し、地域で宴会を定期的に実施たり、お互いによく知る人間同士ということで、子育ても地域ぐるみで行う事となる。

所感

汐見先生の講演を通して、地域で子育てをすること、そしてまちづくりが子育て支援につながることが腑に落ちた感覚を持てたのはとてもよかった。グループワークにて、ホームスタート自体を企業内で起ち上げては?といういささか過激な私の意見に対し、グループメンバーが真摯に耳を傾けてくれたことはありがたかった。ボランティアの担い手が減少している今、企業内の福利厚生の一環として、ホームスタートのコーディネートおよび担い手(ビジター)も捻出することが、企業イメージアップにつながり、優良な人材を留め置くことにつながるのではと思った。
 
全体的に「行政がお金を出して無料で」とか、対 行政への意見なども多く聞かれたが、行政もひっ迫していることを考えると、現実的ではないと思った。企業との連携や支援についてのシステムを構築していくことで少しでもできることが増えていくのではと思う。他力本願ではなく、自ら捻出していくことなどについて考えさせられた。

また、現代の子育て中の親がネット上の情報や、アプリなど文明の利器による子育ての簡略化につながる行為が、親自身の子育て感覚を養う機会を失っていること、更に子どもの非認知能力の成長を阻み、間接的にでも親子の生きにくさにつながっていくことについては、親子にどのように伝えていくことがいいのか、考えていきたいと思った。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?