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人材の流動性を重んじる人事戦略だけでは企業は強くなれません。

『いまご紹介した5つの要因に共通しているのは、「他人任せの意識」です。では、なぜ他人任せになってしまうのでしょうか。その最たるものが、人材の採用、とくにエンジニアやマーケターの採用にあります。コロナ解雇が話題となっている2021年初頭の時点において、エンジニア、マーケターともに有効求人倍率は5倍を超えています。他職種の有効求人倍率が1倍前後であることを考えると、その人気は群を抜いています。採用する企業側は、インターネットに詳しいエンジニアやデジタルマーケティング経験のあるマーケターであれば、DXを進めてくれると思い込んでいるのでしょう。この数年、システム会社や広告代理店に勤めた程度の30歳前後の若手が、採用の過熱から、1000万円を超える年収で採用されているケースもあります。これは何とも異常な状態であり、いびつな雇用格差を起こす要因になっています。私はこの状況を見ていると、ネットバブル時代の人材獲得の過熱ぶりを思い出します。当時、インターネットブームに乗り、Webデザイナー、ネットワークエンジニア、ゲームクリエイターなどが脚光を浴びていました。ところがブームが去ると、その人たちは皆“ただの人”になりました。ブームに乗って大量採用した会社では、採用した人材が大きな負担となり、リストラせざるを得なくなったのです。現在の状況は、まさに当時の状況に酷似しています。やがて、このエンジニアやマーケター獲得合戦も、一部の本当に優秀な人材を除けば、落ち着くはずです。しかし、このままでは、当時と同じ過ちをくり返す危険性があります。エンジニアやマーケターへの過度な期待が、DXを停滞させている可能性があるのです。人材採用について相談を受けると、私はよく、「DXを推進するにあたって本当に必要なのは、エンジニアやマーケターではなく“DX人材”です」とアドバイスします。また、「エンジニアやマーケターを採用しすぎないほうがいいです。やがて負担になりますから」ともアドバイスします。すると相手は不思議な顔をして「エンジニアやマーケターとDX人材は違うのですか?」と予想通りの質問をしてきます。エンジニアはシステムの専門家、マーケターはプロモーションの専門家でしかありません。私は、DX人材とは、「業務・システムを熟知し、企業に変革を起こせる人」だと考えています。システム構築の専門家であるエンジニア、プロモーションの専門家であるマーケターは、専門性はあっても、現状を「変えていく」スキルを持っていない人も多くいます。そのため採用したとしても、その取り組みは、システム導入やWeb販促などの表面上の仕事に限定され、本来のDXは実現されないことが多いのです。エンジニアやマーケターを外部から採用してもうまくいかないことが多いのは、このような理由からです。DXを実現できる人材は、くり返しになりますが、業務・システムを熟知し、企業に変革を起こすことができる人材です。ITの専門家やプロモーションの専門家を高い給与で採用することは間違いであり、即刻やめるべきです。ところが、人材育成の必要性は理解していながらも、多くの人が日々の仕事に忙殺され、短期的な成果を追い求めるあまり、採用に頼っているのが現実ではないでしょうか。海外の成功事例を模倣してはシステムの導入を急ぎ、多額のコストを投じたにもかかわらず、DXが停滞しているケースも多いと思います。実際に私たちの会社にも、「高額で大手コンサル会社に依頼したが、海外事例を模倣した分厚い資料が納品された」「システム会社に依頼したが、流行のシステムの導入がされただけ」といった相談が増えています。そして、結果が得られる前に費用が枯渇し、DXをあきらめざるを得なくなっているのです。そのたびに私は、クライアントに対し、「DXは他人任せにしてはいけません。自社で自立し、自走できるように、社内人材を育成すべきです」と話しています。ただし日本は、DX経験のある人材はまだまだ少ないのが現状です。そのため最初は外部に頼ったとしても、最終的には自社にノウハウが残すことが大切です。つまり、変革やITスキルを教えるノウハウを持つ外部の力を借りつつ社内の人材にDXを経験してもらい、DXを自社で継続していくわけです。これが、DXを成功させる唯一無二の方法と言えます。そのくらい担当者の人選は、DX成功のカギを握っているのです。』

会社の業務とシステムを熟知していて、更に企業に変革を起こせる人材なんて、そうそう外からひっぱって来られません。だからと言ってそんな人材は一朝一夕に社内では育ちません。やはり企業はヒトの集まりなので人材の流動性を重んじる人事戦略だけでは企業は強くなれません。

DXを「エンジニアとマーケター」に頼る会社が、必ずDXに失敗するワケ「他人任せ」になっていないか
https://president.jp/articles/-/47082

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